NRAボイコットは不当
米コラムニスト マーク・ティーセン
憲法で定められた銃所有権
火器の安全性向上にも貢献
フロリダ州パークランドでの学校銃撃事件の数週間前、民主党のクエラー下院議員(テキサス州)は、一般教書演説に特別ゲストを招いた。スティーブン・ウィルフォードさん、その数カ月前に、テキサス州サザーランドスプリングズにあるファーストバプテスト教会で銃撃犯を阻止した英雄だ。
一般市民だが、自宅で通りの向こうから銃声を聞いて、武器を取り、裸足で現場に走った。遅れればその分、命が失われると思ったからだ。銃撃犯と撃ち合い、足と胴を負傷させた。車に飛び乗って逃走したため、通りがかりの車を止めて、必死の追跡を行った。逃走中の車は衝突し、銃撃犯は頭を撃って自殺した。
ウィルフォードさんは、自分は英雄などではないと言う。事件の後「自分は勇敢なんかではないし、怖かった」と話す一方で、「ほかに誰もいなかったから」と言った。まさに奇跡だ。
ウィルフォードさんについて知っておくべきことはまだある。まず、ずっと前から、全米ライフル協会(NRA)のインストラクターだったこと。銃撃犯を制圧できたのはNRAで訓練を受けていたからだ。第2は、銃撃を止めるために使ったAR15だ。今まさに販売禁止が訴えられている銃だ。ウィルフォードさんは「拳銃を持って家を飛び出していたら、防弾ベストとヘルメットの相手を前に無力だったかもしれない」と話している。AR15がなければ、銃撃犯を止められなかった可能性がある。武器、訓練、勇気が、数多くの命を救ったかもしれないのだ。
パークランドにもウィルフォードさんのような人がいたらと思う。
◇企業はNRA非難
この話を頭に入れた上で、NRAをボイコットし、いわゆる攻撃用武器の禁止を求める現在の運動を見てほしい。パークランドでの銃撃事件の後、ユナイテッド航空、デルタ、ベスト・ウェスタン、ファースト・ナショナル・バンク・オブ・オマハなど少なくとも十数社がNRAボイコットに加わった。保険会社チャブ・リミテッドに至っては、NRAの会員が自衛のために武器を使って訴訟になった際の補償をする保険「NRAキャリー・ガード」の停止を発表した。これは、ワシントンのロビイストをボイコットするのとはわけが違う。ウィルフォードさんのようなまっとうな市民をボイコットすることになる。ウィルフォードさんも、ほかの銃保持者ももっと正当な扱いを受けるべきだ。
NRAは、法を順守する市民が銃を持つことで、国はいっそう安全になると考える、きちんとした、愛国的な数百万人の米国人からなる、社会に深く根を下ろした組織だ。そのNRAがパークランドでの事件に責任があるというのは、筋が通らない。銃撃犯ニコラス・クルスの自宅には、2010年以降、39回も警官が駆け付けていた。連邦捜査局(FBI)は1月にクルスに関して警告を受けていたが、決められた手順通りの対応はできていなかった。武装保安官が現場にいたが、行動しなかった。それでもNRAが悪いのだろうか。
◇超党派の合意困難
NRAももちろん完全ではない。私は、銃に取り付けて連射を可能にする「バンプストック」の禁止に抵抗するNRA幹部を非難したことがある。銃購入の18歳の年齢制限は、必要ならば変更すべきだ。
しかし、NRAの会員は、ほかのどの団体よりも、銃による死亡事故の防止と、火器の安全性の向上に尽力している。民主党は、パークランドでのような銃撃事件が起きると、NRAを悪者扱いし、米国人の自衛権を守る上で重要なAR15のような武器の禁止を求める。これは、全米の銃所有者に対する、銃所有者、銃所有の権利を尊重しないという明確なメッセージだ。これによって、憲法で定められた武装の権利を脅かすことなく、公共の安全を向上させる方法で、超党派の合意に達するのが困難になっている。
ニコラス・クルスのような精神的に不安定な人物が銃を持つことは、誰も望まない。しかし、ウィルフォードさんのような責任感の強い人物が銃を持つことは誰もが望むはずだ。現状はそうなっていない。
ウィルフォードさんにふさわしいのは、ボイコットではなく、メダルだ。企業がそれを理解せず、NRAのボイコット運動を受け入れ続けるなら、今こそ、銃所有者がそのような企業をボイコットすべきだろう。
(2月28日)