歴史戦も将来を見すえ、客観的歴史教育で応戦しよう
昨年、韓国は日韓慰安婦合意NGを明言し、慰安婦記念日を制定、慰安婦像は世界で増殖した。カナダの州議会は、中国系議員の「南京大虐殺記念日制定」動議を採択した。対日歴史戦は今年も一層広がりそうだ。日本は個別対応の“もぐらたたき”に加え、中長期的に歴史理解を広げる教育戦に取り組むべきだろう。
年末、ネパールで新憲法公布後初の下院選が行われ、統一共産党と共産党毛沢東主義派(マオイスト)の親中連合が勝利した。
奇妙な感じがする。日本でのネパール人の難民申請は急増し、2016年はインドネシアに次いで2番目、1451人。難民問題に関わる私はよく申請者と話すが、申請理由の過半はマオイストの恐怖だ。96年~06年に、マオイストの武力闘争で1万3000人が死んだとか。「その後も彼らは恐喝、拉致をした。怖い」と言う。
申請者の多くは実は出稼ぎ目的のようだが、その恐怖が申請理由の定番化していることは、以前のマオイストの非道ぶりを物語る。それでも選挙で親中連合が勝つ。中国の多額援助が過去の歴史の影を封じる。
中国はかつて、東南アジア各国共産党の武闘を支援した。フィリピン、マレーシア、タイ、ビルマ(現ミャンマー)その他で、多くの犠牲者を出した。インドネシアでは1965年、共産党の武力革命着手を理由に、党員や支持者50万人が国軍に殺された。
極め付きはカンボジアで、中国は70年代に国民150万人以上を虐殺したポル・ポト革命の強力な後見人だった。その虐殺を裁くカンボジア特別国際法廷は、今年生き残り指導者2人への判決で終了する。後見人はアンタッチャブルだ。
そして韓国(朝鮮戦争時)やベトナムへの侵攻。国内の共産党統治下の数千万単位の犠牲者。国内外の負の歴史を全く語らない中国に、日本の歴史認識を言う資格があるか。昨年の共産党大会で、習近平総書記は「中華民族は世界の諸民族の中でそびえたつだろう」と言ったが、そびえたつ足元は死屍(しし)累々ではないか。
韓国も、昨年11月ベトナムを訪れた文大統領は首脳会談で韓国のベトナム戦争参戦問題に触れず、韓越協力イベントへの祝電の中で「韓国はベトナムに心の借りを負っている」とごく曖昧に述べただけだった。韓国軍が1万人もの民衆虐殺、強姦(ごうかん)をしたという問題、ベトナム女性に膨大な数の子供を産ませて去った問題は言及なし。対日ゴールポストばかり動かし続ける資格があるだろうか。
ついでに、虚報の後始末を全くしない朝日新聞。慰安婦問題、日韓関係を論ずる資格があるだろうか。
日本も反省すべきは反省し続けなければならない。
だが「資格を客観的に問い質(ただ)す作業」は歴史戦の防戦だけでなく、歴史の真実を後の世代に伝えるため必須だろう。
反日教育が増強される限り真の友好はない。将来の真の友好や中国の膨張主義抑制のため大事なのは、歴史教育戦だ。中韓の教科書から「事実と違う反日記述」が少しでも減るよう、粘り強く働き掛けたい。
日本国内でも、外国人留学生へのアジア現代史教育を充実させよう。日本に甘い歴史解釈でなく、客観的なアジア現代史をしっかり教える。日本の青少年も、将来対外歴史発信がきちんとできるようにしよう。
一方、アジア諸国でのアジア現代史研究をもっと支援しよう。中国が支援すると「客観的」は望めまい。
ポル・ポト政権の虐殺記録を集め続けたNGO「カンボジア記録センター」のユーク・チャン所長が言うように「決して自分の都合で真実を弄んではならない」のだ。
(元嘉悦大学教授)