変化求めたイラン国民
米コラムニスト デービッド・イグナチウス
反政府デモを力で鎮圧
対応割れた欧米諸国
2013年にイランを訪れた後、首都テヘランは平壌とロサンゼルスの中間のようだと書いた。世界はこの1週間に、イランの人々は平壌ではなくロサンゼルスになりたがっていることを目の当たりにした。貧しい軍事国家である今のイランを否定し、繁栄した近代的な未来を求めた。
デモでイランが「革命前」の状態に戻るのかと考えることは、重大な点を見落としている。変化のプロセスは既に始まっていた。政権は抑圧という手段で対抗し、動揺は収束するかもしれない。しかし、抗議行動は拡大し、米国の元情報当局者は80カ都市に及んだと指摘した。国全体を元の鞘(さや)に納めることはもう不可能だ。
イランの抗議デモは、1979年の革命以来強まっていた矛盾を際立たせた。高齢の聖職者による支配と不安を抱える若い世代、巨大な経済的可能性と経済的不振という現状、国外への意欲的な進出と国内の困窮などの矛盾を抱えたままだ。政府は分断され、ロウハニ大統領はデモに理解を示し、最高指導者ハメネイ師は鎮圧を望んでいる。
現在の世界を見る限り、抑圧では短期的に結果を出せないというのは難しい。しかし、これは長期戦だ。聖職者らは武力を持つが、国民の信頼を失っているようだ。政権が弱まると、不満を持つ国民を代弁する指導者への支持が高まる。1週間前はロウハニ師がその役割を担っていたようだが、その可能性はなくなった。
◇情報遮断は不可能
欧米諸国の抗議デモへの対応は割れた。トランプ大統領の粗暴なツイートに欧州各国は不快感を持った。このツイートによってイランは、抗議デモの発生を「大サタン」米国などの外部勢力の介入のせいにしやすくなった。フランス、ドイツ、英国は今週、米国からのイランに関する共同声明の要請に否定的な態度を取った。トランプ氏の主張は、向こう見ずで、無責任であることがよくあるが、今回はトランプ氏が正しい。
西側諸国は確かに、イランの人々を抵抗運動へと扇動するような発言に慎重であるべきだ。モラルハザード(倫理の欠如)に当たる。しかし、沈黙することも間違っている。平和的なデモを呼び掛けるべきであり、国民に対する実力行使には結果が伴うとイラン政府に警告すべきだ。政府が、2009年の「緑の革命」の時のように激しく弾圧すれば、必ず結果が伴う。
欧米各国は、イランとの交渉の窓口も開いておくべきだ。イラン政府はソーシャルメディアを制限しているが、完全に遮断することは難しい。イランには現在、4800万台のスマートフォンがある。09年には100万台だった。暗号化されたアプリが利用でき、政府による完全な遮断は無理だ。南部に行けば、アラブ首長国連邦(UAE)などのネットワークに接続できる。イランで投稿された携帯動画の数は大幅に減少したようだが、完全な遮断は恐らくできない。
◇サウジはデモ歓迎
世界が、抑圧的で混乱を招くイランの体質に集中している中で、トランプ政権が核合意に焦点を移すとすれば、愚かなことだ。トランプ氏は、合意を維持し、国外からのイランへの介入に集中すべきだ。イラン政府が国内問題にとらわれている今こそ、イエメン、シリア、レバノンの代理勢力への輸送路を絶つべき時だ。米国と同盟国が代理勢力の締め付けを強めれば、「ガザもレバノンもいらない。イランのために命をささげる」という反政府勢力の叫びも増幅される。
イランの指導者らは、トランプ氏や欧州の指導者らが何を言おうと、米国と同盟国を非難する。イラン最高安全保障委員会のシャムハニ事務局長はテレビのインタビューで、反政府勢力のハッシュタグの27%から29%はサウジアラビアからのものだと具体的な数字を挙げたが、これはでっち上げだ。サウジは確かに抗議デモを歓迎しているが、国中に広がったデモを外国の陰謀のせいだとするのは、自己欺瞞(ぎまん)であり、物理的にも不可能だ。
中東はこの抗議行動から何を学ぶべきか。サウジのサルマン国王の子息で駐米大使のハリド王子にこう質問してみた。答えは「イラン政府は、未来をふさごうとしている。後ろ向きの改革を行っている。サウジの進む道は違う」だった。サウジが国の未来を若者と近代化に賭けているなら、それは正しいことだ。
イラン政府は抗議デモを受けて動揺し、激しく反撃した。しかし、これほどまでに強く変化を求める社会で、今後もずっと聖職者支配が続くと考えることは難しい。そのための戦いを起こすのは欧米ではない。だが、誰が正しく、誰が間違っているかははっきりと指摘することはできる。
(1月5日)






