トランプ氏、自身の恩赦模索

セッションズ氏を激しく非難

Charles Krauthammerアメリカ保守論壇 チャールズ・クラウトハマー

 透明性、汝の名はトランプ、ドナルド・トランプなり。衝動が、フィルターも、統治者も、編集者も経ることなく公的活動となる。ツイート、それが、トランプ氏がトランプ氏たるゆえんだ。

 ロナルド・レーガン氏は、自己完結型で、人を寄せ付けなかった。公認伝記作家はレーガン氏を理解しようと気も狂わんばかりだった。トランプ氏はどんなときも分かりやすい。

 セッションズ司法長官との戦いがまさにそれだ。ロシア疑惑をめぐってセッションズ氏を名指しで非難してきた。何とかするよう要求したり、辞任を求めたりするのでなく、わざと大っぴらに侮辱し続けてきた。

 毎日、セッションズ氏をなじり、連邦捜査局(FBI)長官代行を解任しないとか、ヒラリー・クリントン氏の刑事責任を問わないとかとあらゆる理由を付けて非難している。

 セッションズ氏は傷つきながらも、こつこつと職務をこなし、自身のキャリアの頂点である長官ポストを辞めるよう仕向けられても、拒否し続けている。見ている方が苦しくなるような光景だ。

 トランプ氏はセッションズ氏をもてあそび、楽しんでいる。それを公然と行う中に、病的なほどに支配力を示すことに固執する異常な執念深さが表れている。

 ◇支持基盤に初のひび

 支配はトランプ氏にとって一つの楽しみだ。トランプ氏を支持している人なら問題はない。クリス・クリスティー氏がそうだった。支持していない場合は、ミット・ロムニー氏のようになる。トランプ氏は国務長官のポストをこれ見よがしにちらつかせた上で、最終的に取り消し、ロムニー氏は恥ずかしい思いをした。

 だが、セッションズ氏の件は性格の問題だけにとどまらない。政治的な意味合いもある。トランプ氏の基盤に初めてひびが入った。だが、非常に強固であり、まだ分裂してはいない。しかし、35%から40%の強固な支持基盤を持つ中で、議会と親トランプ知識人の間で支持が失われ始めている。

 問題となっているのは、性格というよりも思想だ。ウィークリー・スタンダード誌のスティーブン・ヘイズ氏が指摘したように、セッションズ氏はトランプ氏以上にトランプ主義者だ。トランプ氏が大統領になる前から、貿易、警察、移民などで強硬な政策を支持していた。

 セッションズ氏が早い段階でトランプ氏支持を表明したことを、思想的な判断基準にした保守派は多い。セッションズ氏は司法省で依然、忠実にトランプ主義を実行している。トランプ氏は個人的な感情から、セッションズ氏にきつく当たっているのかもしれない。だとすれば、トランプ氏がもともとセッションズ氏のものだった政策を採用していることは、セッションズ氏支持の保守派にとっては皮肉なことだ。

 しかし、セッションズ氏の件では、性格と思想の問題以上に、ひどい点がある。改めてクリントン氏の訴追を目指そうとしていることだ。

 2016年の選挙戦では、クリントン氏を「収監せよ」と叫ぶ群衆がいて、トランプ氏やその周辺がそれをあおったこともあった。だが、選挙後、トランプ氏は考え直し、「苦しい目に遭い、耐えてきた」クリントン氏を追及しないと表明した。

 だが、形勢が不利になると、あの寛大な態度を捨てた。今はクリントン氏を収監した方がいいと考えている。

 これは全くの見当違いだ。クリントン氏に対するすべての訴えが事実で、20年の懲役刑を受けても、トランプ陣営に向けられている共謀の疑いが事実なのか、または偽りなのかにはまったく関係がない。

 ◇良識示した元大統領

 さらに米国では、政敵が収監されることはない。トルコではある。ロシアでもある。ロシアはトルコよりもひどい。米国が素晴らしいのは、政治活動を犯罪とはしないことだ。

 トランプ氏は、空母「ジェラルド・R・フォード」就役の式典で演説した。フォード元大統領は大物ではない。大きな政治的レガシーも残していない。しかし、その良識と誠実さは高く評価されている。リチャード・ニクソン氏への恩赦で、その良識と誠意を示した。当時は非難され、その結果、1976年の選挙で負けた。

 政治的自己犠牲的行為であり、その根拠も適切だった。ニクソン氏は確かに犯罪を犯した。しかし、元大統領が法廷で裁かれ、収監される光景がこの国で見られることを、フォード氏は良しとしなかった。

 フォード氏は大統領恩赦によってその目的を果たした。一見、不条理に見える。一人の人間が正義をひっくり返してしまったのだから、それはそうだ。しかし、建国の父らは、平和な社会と国民の和解のために、通常の正義に反することが必要なときが、まれにだが、あることを理解していた。ユリシーズ・グラント大統領はアポマトックスで、南部連合の兵士、将校らに恩赦(正確には執行猶予)を出し、農業のために馬一頭を持つことも認めた。

 トランプ・ワールドでは、そのような寛大な守護天使は顕現しない。確かにトランプ氏は恩赦の権限について調査している。だがそれは、自分自身と近親者を恩赦するためだ。

(チャールズ・クラウトハマー、7月28日)