情勢一変させた北ICBM
米国の締め出し狙う中露
米国は25年間、5代の政権にわたって北朝鮮が正しい道を進むよう圧力をかけてきた。だが、手に負えなくなっている。
北朝鮮は7月4日、米国を攻撃できるとみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を行った。今のところアラスカだけだが、すぐに米国全域を射程に収めるようになる。
さらに、北朝鮮は、中距離ミサイルに小型化した核弾頭を搭載できると主張している。すぐに、ICBMに搭載できるようになる。
情勢を一変させるこの出来事を受けてティラーソン国務長官は「世界的脅威を止めるために、世界が対応する必要がある」と訴えたが、あまり励みになるものではなかった。
これは、外交官流に言うと、多国間での支援の要請ということになる。だが残念ながら、世界的な支援はない。
世界的な脅威であるのは確かだが、世界にとって利益とはならないからだ。国ごとに国益があり、一致することはない。この件に関しては特に一致しない部分が大きい。
ロシアと中国を見てみたい。北朝鮮へ外から圧力をかけるとすれば、それはこの両国からになる。両国は4日、取引を提案する共同声明を出した。北朝鮮が核とミサイルの実験を凍結する代わりに、米国が韓国との大規模合同演習を停止するというものだ。
まったく話にならない。軍事演習は、半世紀にわたって米韓同盟の根幹を成してきた。停止すれば、地域を安定させ、韓国の独立を保障してきた持続的な両国関係が終わることを意味する。これはどんな条件の下でも譲れない。
◇北朝鮮支援する中国
試しに停止してみるというのはどうだろうか。だが、この提案からは、米国の最低限の目標である北の核開発計画の放棄をさせようという意思はまったく感じられない。その上、北朝鮮とは何度も凍結で合意してきた。そのたびに合意は破られた。
ロシアと中国が、差し迫った脅威を前に、直ちに拒否される提案を持ち出したことは、両国の本当の目的が北の非核化ではないことを示している。真の目的は、韓国との同盟関係を断ち、米国の環太平洋地域での影響力を弱め、締め出すことにある。
このような国が、この危機を解決するためのパートナーとなり得るだろうか。
そればかりではない。トランプ氏は当初、北朝鮮問題の解決で中国の善意を当てにしていた。だが、トランプ氏は2週間前、ツイッターで、中国は失敗したと宣言した。トランプ氏は「中国は確かにやろうとした」と続けた。
本当だろうか。トランプ氏自身、5日に北朝鮮の中国との貿易はこの3カ月間でほぼ40%増加したとツイートし、中国が何もしていなかったことを認めた。
確かに何もしていない。北朝鮮の最新のミサイルが脅威なのは、6400キロの射程を持つからだけでなく、移動式でもあるからだ。しかも、発射台は中国のものだ。
核抑止力という点から見ると、移動式であることは素晴らしいことだ。敵に発見されることはなく、そのため先制攻撃を受けることもない。北朝鮮にとっては大きな一歩だ。それを中国が支援している。
中国は、われわれのように北朝鮮を非核化しようなどと考えていないと何度言わなければならないのだろう。中国にとっては、分断されていた方が都合がいいのだ。つまり、西側と同盟関係を持ち、中国と国境を接し、核を保有している可能性のある統一朝鮮ができないようにするために、北朝鮮という従属国家を維持しているのだ。
◇中国の銀行に制裁も
核を持てば体制は生き残れる。金ファミリーがひたすら核を追求するのはそのためだ。明確な教訓がある。サダム・フセインは核を持っていなかった。金王朝は、10から16発持っている。誰にも手出しされず、すぐに誰も手出しできなくなる。
どうすればいいのか。トランプ氏は、中国がやらなければ、米国だけでもやらねばならないと警告した。その場合、選択肢は二つ、黙認か戦争かだ。
戦争はほぼ考えられない。非武装地帯に近いソウルに1000万人が住んでいるからだ。通常戦争でも、大変な被害が出る。すぐに核戦争へと発展する可能性もある。
黙認はあり得なくはない。中国が毛沢東の下で核保有国となった時がそうだった。毛政権は文化大革命の中ですぐに正気を失った。
第3の道、中国が汚れ仕事をやってくれるという選択肢は、ほとんど夢物語だ。中国の銀行に追加制裁を科すことが検討されている。中国はそれで、考え方を変えるだろうか。ブルジョアの民主主義国は、経済は戦略的地政学を凌駕(りょうが)すると考える。米国はそうなのかもしれない。だが独裁国家ではほぼあり得ない。
戦略バランスを決定的に変えたければ、1991年に撤収した米国の戦術核を韓国に再配備すべきだ。もしくは、日本に独自の核抑止力を持つよう働き掛けることもあり得る。そうなれば、中国は無視できなくなる。全く新しい核のジレンマに直面することになる。日本の核保有を許してまで、北朝鮮を守る意味があるだろうか。
強力な代替案だが、危険であり、その先の予測が非常に難しい。したがって、今のところ最も可能性が高いのは、黙認ということになる。
(チャールズ・クラウトハマー、7月7日)