サウジから始まる中東和平
まずアラブとの融和を
「神々がアラブ・イスラエル紛争を最初に解決しようすれば、破壊することになる」-アービング・クリストル
米国は中東和平を追求し続けているが、何ともこっけいだ。失敗し続けているが、どの政権も取りつかれたように、中東和平に取り組む。トランプ政権も例外ではない。
トランプ氏も失敗する。たしかに、トランプ氏は中東和平を「究極のディール」と呼ぶ一方で、実現に意欲を示したが、まだ、それが原因で問題は起きていない。しかし、中東の他の場所であった大きな進展が損なわれることになる。
この進展は、トランプ氏のサウジアラビア訪問で始まった。就任後初の訪問であり、米国の中東政策の根本的な方向転換を意味することは間違いない。つまり、イランへの融和策は終わったということだ。
オバマ前大統領は、イスラム教シーア派のイランと、サウジ率いるスンニ派アラブの間の大イスラム戦争でイランに傾斜した。これは、ニクソン元大統領の対中政策の成功をまねたものだ。これは、みじめな結果に終わった。
核合意によってイランは穏健化すると考えたが、全く間違っていた。挑発的な弾道ミサイルの発射を行い、シリアで殺戮(さつりく)を続けるアサド政権を露骨に支持し、イエメンで反政府勢力のフーシ派を支援し、世界各地でテロを支援し、反米主義を執拗(しつよう)に追求し、イスラエルの破壊を訴え続けている。
◇イランの挑発拡大
イランの挑発行動は縮小すると思われていたが、そうはいかなかった。逆に、核合意で資金を入手し、制裁が解除されたことで、影響力拡大への地政学的攻勢は強まった。
それを逆転させる動きはすでに始まっている。まずは、約50カ国のイスラム教国家指導者が参加した会議でトランプ氏がリヤドで行った演説だ。参加国は、イランに対抗するための広範囲なイスラム同盟を築き、米国と協力する意思を明確にした。
これが第一の目的だ。スンニ派国家をスンニ派によるテロに立ち向かわせることも重要だ、イスラム国はスンニ派だ。アルカイダもスンニ派だ。米同時多発テロの実行犯のうち15人はサウジ人だった。さらに、サウジが資金を拠出している世界中のマドラサ(イスラム神学校)は長年、有害なワッハービズムを拡散させ、イスラムテロを煽(あお)ってきた。
サウジなどペルシャ湾岸諸国が、道を外れたテロリストらへの戦いを公に宣言したことは重要だ。政府支援を受ける組織の支援や個人的な寄付を受け入れないことも約束され、サミットではリヤドにテロ対策センターを設置することが決まった。
米国はテロに対して8年間、無視と裏切りを続けてきたが、スンニ派アラブ諸国は米国の支援を受け、安堵(あんど)している。これによってイスラエルとの和解の可能性も出てくる。
アラブ・イスラエル和平へ外側から取り組んでいく道が開けてくる。スンニ派国家サウジとイスラエルが和解すれば、外からパレスチナへ譲歩するよう圧力がかかることになる。
時間はかかるが、他のどの案よりも有望だ。残念なことにトランプ氏はイスラエルで、逆の戦略、つまり内側から外側へと逆転させ、問題を複雑にした。イスラエル・パレスチナ合意で、「中東全体での和平プロセスが始まる」と語ったのだ。
これは全く陳腐で意味がない。イスラエルがあした、地震で消滅したと考えてみよう。シリアの内戦が終わるだろうか。イラクの混乱は解消するだろうか。イエメンの内戦はどうか。イスラエルがなくなっても、アラブ内の混乱には何の影響もない。
◇オスロ合意は幻想
陳腐であるばかりか、内から外への戦略は現状では不可能だ。パレスチナ指導部に力はなく、度し難いほどの対イスラエル強硬派だ。パレスチナがユダヤ国家の正当性を受け入れる用意ができるまで、和平は訪れない。バルフォア宣言で英国がパレスチナでのユダヤ国家建設を約束してから100年、パレスチナがユダヤ国家の正当性を認めたことはない。
いつの日かそのようなことがあるかもしれない。しかし、今は無理だ。これが、イスラエル・パレスチナ問題を、中東を揺るがす壮大なスンニ・シーア戦争の中心に据えることが、大変な戦術的間違いである理由だ。それをすると、イスラエルとアラブ諸国の和解の見込みすら、パレスチナの反対で消えてしまう。
皮肉なことに、オバマ政権下で拡大したイランの脅威が、米アラブ、イスラエル・アラブ間の協力の機会につながった。これまでは考えられなかったことだ。そのような協力が進めば、アラブの人々も時間とともに、イスラエルへの融和姿勢に慣れてくるはずだ。アラブ諸国が最終的に、パレスチナの対イスラエル強硬姿勢にうんざりしてくれば、パレスチナとしては譲歩するようになる可能性がある。
何らかの形で和平プロセスが必要になってくるだろう。イスラエル・パレスチナ交渉が見せかけであることを忘れなければ、和平の機が熟すまで大きな問題は起きないはずだ。
当面必要なのは、対イラン、対テロ戦線だ。オスロ合意のような幻想に振り回されてはいけない。
(チャールズ・クラウトハマー、5月26日)






