共和はオバマケア見直しを

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

保険料はリスク反映で
合理的制度構築へ犠牲必要

 「主は与え、主は奪う」というが、政府にとってはそれほどたやすくはない。例えば2000万人に医療保険が与えられれば、国民はそれを受け取るが、自己負担だ。これは政府からの補助のどれにも当てはまる。特に医療保険にはぴったり当てはまる。いったん整えた全国的な医療保険制度を廃止する西側民主主義国家がないのはそのためだ。

 頭のいい左派は、廃止することが政治的に不可能な補助金を新たに作り出し、補助金国家を拡大し続ける。共和党は20年間、ニューディール政策を非難した。しかし、1953年に政権を奪取すると、アイゼンハワー大統領は社会保障制度を維持したばかりか、拡充した。

 国民は、押し付けがましく、役立たずで、費用の掛かるオバマケアを嫌っている。同時にオバマケアの作成者らは、新たな受益者、新たな受益見込み者を作り出すことに心血を注いだ。それによって、廃止はますます困難になった。

 議会予算局(CBO)の見積もりでは、ポール・ライアン氏のオバマケア廃止法案によって、最初の1年で1400万人、10年以内に2400万人が医療保険を失う。

 この数字は明らかに怪しい。CBOは、2018年にオバマケア保険市場で加入する人は1800万人と予測している。しかし、現在は約1000万人。つまり、CBOの保険を失う人の予測は既に800万人も多過ぎることになる。

 それでも、保険を失う人は確かに出る。当然ながら、その人たちの話があらゆるメディアに取り上げられる。

 共和党穏健派はそれを恐れている。だがライアン氏の案には保守派も反対している。法案は、保守派のイデオロギーから見ると不十分だからだ。オバマケア・ライトだと揶揄(やゆ)している。

 例えば、ライアン氏は、2020年まで低所得者向け医療扶助(メディケイド)の拡大を段階的に廃止していくことで痛みを軽くしようとしている。保守派の共和党研究委員会は、来年中にそれを実行することを求めている。これは異常だ。2年間短くするために、政治的なリスクを負うのはばかげている。

 オバマケアを根こそぎ取り払うという計画は確かに魅力的だ。だが、破滅的なほどの欠陥はあるものの、オバマケアができたことで期待も生じてきた。既往歴のせいで医療保険に加入できなかった頃に戻ることを提案する共和党員がいるだろうか。

 この新たな補助金を維持しようとしているのはトランプ大統領だけではない。だが、問題もある。病気にかかった後でも保険に加入できることが分かれば、保険の概念そのものが覆されることになる。健康である間は誰も保険に入らず、保険会社は破綻する。

 ならばどうすればいいのか。オバマケアは、加入しなかった場合、罰金を科す。ライアン法案では、代替制度をつくる。オバマケアほど強制的ではないが、義務付けられる。

 政府による加入義務付けを完全になくしてしまおうという主張は、夢物語であり、実際にはありえない。最善の方法は、メディケイドに包括的補助金を支給するライアン氏の案のように、強制的でなく、合理的な保険にすることだ。

 それが駄目なら、もっと現実的で、年齢に応じた制度にすべきだ。60歳は20歳の6倍、医療保険を使うが、オバマケアでは完全に恣意(しい)的に、60歳の保険料は20歳の3分の1以下と決められている。共和党の法案ではこの割合は変更され、3対1から5対1の間になっている。

 リスクをよく反映した保険料が採用されれば、制度自体の合理性も取り戻せるはずだ。生命保険はそうなっている。オバマケアでは、若者は高い保険料を払うのを嫌がり、加入を拒否している。若者が加入しなければ、制度全体が破綻へと向かうだけだ。すでにその兆候はある。

 しかし、合理的制度を築くには犠牲が必要だ。CBOはすでに、60歳への保険料の引き上げを予告している。これは重要だ。

 ただのランチはないということだ。共和党の強硬派は、国民が新しい医療保険の恩恵に慣れてしまっていることを認めなければならず、穏健派は、どのような改革にも犠牲が伴うものであるという現実を受け入れる必要がある。これが、オバマケアを廃止または別のものと取り換えるという7年間の約束を実行するための政治的犠牲だ。

 それができないなら、策を弄(ろう)するのはやめて、民主党にすべてを任せるしかない。共和党は、51票あれば上院を通過させられる「和解」法案の難解な条件に応えるのをやめ、上院に、不法行為法改革、州ごとの保険会社の競争など保守派が求めるすべてを盛り込んだ代替法案を提出すればいい。これには、60議席が必要だ。民主党に任せれば、議事進行妨害で法案は廃案になる。オバマケアは廃止も変更もされず、継続し、いずれ自らの重みで崩壊する。その責任は民主党が問われる。

 反発を買うことにはなるが、善意を貫くことはできる。

(3月17日)