反乱を起こした州司法長官
米大統領の権限に対抗
憲法の創造性と柔軟性示す
オバマ前大統領が意図せずに残した遺産の一つに、ほとんどの人が気付いていないものがある。大統領権限に抵抗する新たな方法ができたことだ。大統領のさまざまな権限掌握に対抗する必要から生まれたある種のチェック・アンド・バランスだ。
それは、州司法長官らの反乱だ。結束して大統領令に反対する訴訟を起こし、阻止した。オバマ政権が終わっても、これは続いている。
通常は、議会が大統領の行き過ぎをチェックする役割を果たす。だが、議会は無気力だった。民主党は特に、オバマ氏の政治的嗜好(しこう)に寛大で、オバマ氏は議会の憲法上の権限を思い通りにすることができた。
そこで生じた空白に州が入り込んできた。フロリダ州など13州が、オバマケア成立のその日にオバマケアを提訴した。その後、さらに13州が加わり、州による反乱が初めて、過半数の州の支持を受けた。
いつも成功したわけではないが、成功例は多い。オバマケアで義務付けられていた高齢者・障害者向け公的医療保険(メディケア)の拡大は阻止されたが、オバマケア全体としては支持された。その後、州の過半数は、実にひどい環境保護局(EPA)法2本を支持した。そのうちの一つは、連邦政府に発電と電力を分配する権限を与え(クリーン・パワー・プラン)、残りの1本は、米国内の事実上すべての沼、池への権限を連邦政府に付与する(米国水域規則)。
最もよく知られているのは、400万人の不法移民に事実上、滞在資格を与えるオバマ氏の大統領令を阻止したことだ。オバマ氏は「議会がすべきことをしないなら、いずれにしても私たちがする」と話した。裁判所はこれを拒否した。
民主党は気付いた。今、共和党の大統領が就任し、民主党はこの手法を取り入れた。議会の支配を失った民主党は、州を通じて大統領の権力を制限できることに気付いた。トランプ氏の入国禁止にこれを使った。裁判所が州に「当事者適格」を認めたがっていることを利用して、ワシントン州とミネソタ州が地裁に、トランプ氏の大統領令に対する禁止命令を出させ、第9巡回裁判所がこれを支持した。こうして入国禁止は死んだ。
奇妙な勝利だ。この勝利に意を強くした民主党支配の州は今後、結束して、省の判断、とりわけEPAと教育省の判断と、大統領令の両者から出てくるトランプ政権の施策に反対する。
これはいいことなのか。どのような党、政策を支持していようと、注目に値する現象を目撃していることは間違いない。これは、立憲主義に内在する自然な反応だ。行き過ぎを阻止する従来の障壁が機能を失うと、新たなチェック・アンド・バランスがほぼ何もないところから現れる。
連邦議会は自らの価値をおとしめている。海外での武力行使の新たな承認を検討するときも議会は消極的だった。この問題の権限が憲法上、議会にあることは間違いない。現在の共和党主導の議会も、何年もかけて主導権を握る準備をしたが、どことなく頼りなく、ほぼ無力だ。ワシントン・ポスト紙は、「共和党員の多くは、トランプ氏がはっきりと前進命令を出すことを待ち望んでいる」と報じた。大統領令、議会の停滞、これは建国の父らが目指したものではない。
そのため、州の司法長官らが立ち上がって、大統領とその部下らをチェックし始めた。これはいいことだ。
必ず最良の結果が出るからではない。いい結果が出ないこともある。
裁判所に当事者適格を与えることが常に正しいからでもない。第9巡回裁判所は確かに、ミネソタ州とワシントン州に当事者適格を認め、米国に入ったことのないイエメン国籍保持者の法の適正手続きの権利を代弁させた。これは、イエメン人に架空の権利があることを前提としたものであり、州にとっては有害だ。
司法がこのプロセスを経て、さらに強い権力を獲得することがいいことだからでもない。これは、選挙で選出された機関が裁定を下すべきものだ。問題は、議会が軽視されていることだ。
それでも、司法長官らの反乱は、祝福されるべきものだ。米国憲法の創造性と柔軟性を示すものであり、古い足が衰えると新たな足が生えてくる両生類の能力を憲法が備えていることを示していて心強い。
当然ながら、州が連邦政府の権力に逆らったのはこれが初めてではない。1861年のサムター要塞(ようさい)がある。使った道具は複数州での訴訟ほど鋭くなかった。だからこそなおさら、この現代の道具を喜んで受け入れるべきだ。
今後4年間、保守派が望んだ結果にならないケースがたくさん出てくるはずだ。ちょうど、オバマ氏が進める政策が妨害されて、リベラル派が非難されたのと同じだ。
しかし、ここで重要なのは結果ではなくプロセスだ。素晴らしいことに、大統領の意向に対抗するために、新たなプロセスがそれと意図せずにつくり出された。2世紀半がたち、フランスは第5共和政だが、米国はまだ第1のままの理由はここにある。
(3月3日)