難民はババ抜きのババ

山田 寛

 トランプ米大統領の難民受入れ停止令などの問題は未決着だが、難民は世界でますますババ抜きのババになりつつある。

 トランプ氏は、昨年末オバマ前政権とオーストラリアが結んだ難民・移民交換合意を「最悪の取引」と非難し、ターンブル豪首相との電話で「次のボストン爆破犯を輸出するのか」と怒鳴ったという。

 オーストラリアは今、中東、南アジアなどから来る難民・移民希望者を、ナウルとパプアニューギニアに頼み、両国の島の施設に収容している。交換合意は、うち1250人を米国に引き取ってもらい、代わりに中米出身の難民・移民を引き取るというものだ。

 こうした外注策には批判が多い。カンボジアへの外注は大失敗。14年に、4年間で4000万ドルを供与し、希望者を引き取らせる取引を成立させた。その後、数人がカンボジアに移ったが、苦しい生活に驚きすぐ逃げ出してしまった。

 ケニアでも、難民問題で大統領と裁判所が対立している。政府は昨年、世界最大級のダダーブ難民キャンプ(ソマリア人ら約30万人を収容)を閉鎖すると発表した。難民に寛容だった国だが、近年ダダーブが、南ソマリアのイスラム武装組織「アルシャバブ」のテロ発射台になっているとし、難民追い出しを決めた。だが、援助団体などが反対、裁判となり、先日「閉鎖は、専横で差別で違憲」との一審判決が出たばかりである。

 イスラエルは3年前から、流入アフリカ系難民を、ルワンダ、ウガンダに転送する作戦を展開、既に数千人を送った。見返りは兵器や軍事訓練などの供与だ。

 ミャンマー・バングラデシュ国境では、ミャンマー領内の無国籍住民、ロヒンギャ族の悲劇が重大化している。昨年10月、国境警備詰め所がロヒンギャ過激派に襲撃された後、ミャンマー軍の殺戮(さつりく)、レイプ、略奪付きの過激派討伐作戦が続いた。国連関係者によれば、死者は1000人以上。7万人が新たにバングラ側に逃げ込んだ。

 バングラデシュ政府も一昨年、難民をベンガル湾の小島に隔離する計画を立てた。高潮ですぐ水浸しになる島。人権団体などの反対で、“島流し”計画は頓挫したが、今回の大量流入で計画が復活しつつある。

 昨年、地中海では、中東、アフリカからの難民・移民のボートピープル5000人以上が水死した。過去最多だった。

 昨年3月欧州連合(EU)が、トルコ経由の密航を抑えるべくトルコと合意した。最強硬派ハンガリーなどは一昨年から、国境に高いフェンスを設け、非常事態宣言も出して流入ルートを遮断した。そこで、より危険な北アフリカ出発コースを取る者が増えたのである。

 昨年、EUの難民受け入れ分担計画に関し、ハンガリーが実施した国民投票では、なんと98%が受け入れに反対した。欧州各国で受け入れ抑制論が強まり、来月のオランダ総選挙でも4月の仏大統領選第1回投票でも、「反移民・難民」の右翼の勝利が予想されている。最終的に政権を握る可能性もゼロではない。

 グテレス現国連事務総長は難民高等弁務官時代、「国々が、難民に関する自分の責任を他に移さないことが肝心だ」と強調した。だが難民は今、人間ピンポン玉のように軽くはじかれている。

 昨年の難民認定者28人の日本が批判しても、「あんたたちに言われたくない」と反論されるだろう。日本は、日米首脳会談後の記者会見での安倍首相の言葉、「難民やテロの問題で日本の果たすべき役割、責任を果たしていきたい」を、最大限実行するしかない。

(元嘉悦大学教授)