無意味な混乱招いた入国禁止
目的は選挙公約の実行
テロ対策への悪影響も
ばかげているが法律だ。イスラム教国7カ国からの米入国禁止措置のことだ。米国人の日常に関する政策や倫理的な問題とすべきものはどれも、法的に対処される。今回の提訴は、さっさと片付けるべきものだった。外国人の入国を禁止する大統領の権限は非常に広範囲に及び、大統領にその権限があることは明らかだ。判事が一時的に禁止令を制限したのは、違法だからではない。
控訴裁は確かに、入国禁止措置差し止めの判断を下した。しかし、入国禁止が最終的に支持されても、たちの悪い政策であるという事実は変わらない。この考えは、サンバーナディーノ乱射事件後に突然出てきた。ドナルド・トランプ氏が、イスラム教徒の米国への入国を「何が起きているのかを、この国の代表者らが把握するまで」完全に禁止すべきだと訴えた時だ。
ルディ・ジュリアーニ氏は、この案をまとめることを任されたと言っている。そうしてできたのが、7カ国の国民の入国を停止し、その間に審査手順の見直しと強化を行うという大統領令だ。
その中心にある考え方は理にかなっている。これらの国々は、イランを除き、破綻し、事実上統治されておらず、信頼できる資料は手に入らない。しかし、入国停止期間は不必要であり、実際に損害が出ている。その唯一の目的は、この間違った選挙公約を実行することにあった。
大変な混乱を招き、米国を安全にすることもなかった。米入国のビザを持ち、すでに飛行機に乗っていた人たちを拒否するほどの緊急性があるのか。
トランプ大統領は、警告を出すことはしたくなかったと言った。警告してしまうと「『悪人』がこの国に殺到する。…あちらには悪い『やつら』がたくさんいる」とトランプ氏はツイートした。
殺到と言った。この悪評の高い7カ国の出身者によって米国でテロ攻撃を受けて死亡した米国人は一人もいない。ここに挙げられていない国からならある。エジプト、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、レバノン、パキスタン、キルギス(ツァナーエフ兄弟)だ。すぐに行動しないと、これらの7カ国から聖戦主義者らの群れが飛行機に乗り込み、米国を爆破するという考えは、ばかげている。
入国停止期間を設けなくても、審査基準を改定、強化することは容易にできたはずだ。入国停止措置を取ったことが混乱を招き、愚行であり、無差別の虐待であり、当然ながらメディアは酷評した。
入国停止によって、現在の空港のセキュリティーシステムの一番ひどい部分があぶり出されてしまった。セキュリティーの95%は無駄だということは誰もが知っている。80歳のおばあさんのボディーチェックをしても、米国は安全にはならない。その目的は、対策を講じていると思わせることだ。さらに、短期間の入国停止期間に、悪意のない、思いやりのある人々、大学院生、離れていた家族、米国に戻る医師や科学者らが次々に、入国を拒否された。これを見た人々は、このような人々から国を守るというのはどういうことかと自問した。
いずれにしても、この騒ぎで、トランプ氏が訴える米国に入る外国人に対する極端な警戒心を和らげることにはなった。すでにその兆候は表れている。昨年11月23日のキニピアック大学の世論調査で、「『テロが目立つ』地域からの移民の停止」支持が反対を6ポイント上回っていたが、2月7日の調査では、反対が6ポイント上回った。同じ世論調査で、「シリア難民の米国への移民を無期限に停止する」への反対が賛成を44ポイントも上回った。
この大混乱には他の犠牲を生む可能性がある。影響を受けないイスラム教国の指導者らをも排斥してしまうリスクがあるからだ。イスラム協力機構(OIC)の57カ国は「強い懸念」を表明した。実質的で、効果的なテロ対策の実施を阻む可能性がある。米政府は、ムスリム同胞団をテロ組織に指定しようとしている。これが実行されれば、世界のイスラム勢力からの協力は得にくくなる。現状を見る限り、テロ組織指定の発表は延期され、見直されるとみられている。
それ以外にも、準備が不十分で、調査もしっかりなされていないずさんなプログラムのせいで失うものがある。永住権保有者の入国が当初拒否されたことで、愛国心を持ち、法を守るイスラム教徒米国人に、現状にそぐわず、敵対的なメッセージが突き付けられた。永住権を持つイラク人への入国拒否が波及し、戦争での米国への協力が失われる可能性がある。今後の紛争で、現地のイスラム教徒が、米国側に加わり、協力するかどうかを決める際に影響が出ることは避けられない。行動には結果が伴う。
要するにこれは、公約順守を狙ったものであり、厳格なテロ対策のシンボルとしての入国禁止措置は、無駄な動揺を生んだだけだった。政権は誕生したばかりであり、政策は今後変わり得る。規制緩和、税制改革、医療保険改革を強く推進すべきときであるにもかかわらず、意味もなく自らを袋小路に追い込んでしまった。これでは勝った意味がない。
(2月10日)