対韓国ショック療法

山田 寛

いつ終えるか判断が難しい

 韓国・釜山の日本総領事館前の慰安婦像設置に対し、日本政府が駐韓大使らの一時帰国など、珍しく強硬な対抗措置を取った。だが、ボールを投げられた韓国側コートからは、日韓双方に自制を求めるのが精一杯の黄教安首相(大統領代行)の苦悩と、朴槿恵政権打倒を目指す大デモや慰安婦像設置を勢いよく進める左翼陣営の「反日シュプレヒコール」の高まりだけが伝わってくる。

 慰安婦像が撤去される可能性はゼロに近い。

 次期大統領選挙で、親北政権が誕生する可能性がどんどん強まっている。韓国との合意では、「ゴールポストが動く」とよく言われるが、左翼の「共に民主党」が次期政権を握って日韓合意の無効化に動き、「挺身隊問題対策協議会」(挺対協)などが、さらに慰安婦像設置のパフォーマンスを強めれば、ゴールポストなど霧の彼方に消えてしまう。左翼陣営には、問題がずっと続き、北朝鮮の核への対処やアジアの平和と安定のためのカギ、日米韓協力が壊れる方が望ましいのだろう。

 彼らが親北で反日・反米・反(保守派)韓国というのは、国内外で建てられているこの慰安婦像の作者、キム・ウンソン、ソギョン夫妻の他の代表作に端的に示されている。夫妻は、2002年に韓国で米軍装甲車に轢(ひ)かれて死んだ少女たちを追悼する作品を作り、最近では、ベトナム戦争時の韓国軍による民衆虐殺の被害者を慰霊する母子像もこしらえている。

 私もベトナム戦争記者だったから、夫妻らが「韓国政府は、ベトナムでは謝罪しなければならない」というのは、基本的にはその通りだと思う。だが、ベトナム参戦は、朴大統領の父、朴正煕政権時代のことであり、それを含めて韓国の保守政権と日米を非難するというのは、北朝鮮とピッタリ重なる政治的狙いを強く感じさせる。

 そういうわけで、状況改善の見通しが立たない中、日本にとって難しいのは、いつまで対抗措置を続けるか、である。

 日本外交は、こうした“荒業”に慣れていない。

 日本政府は、昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)への年次分担金と任意拠出金(計約46億円)の支払いを、一時保留した。ユネスコが一昨年、中国申請の「南京大虐殺」関連文書を、一方的に世界記憶遺産に登録した。「実証がない宣伝文書だ」とする日本の意見が、完全無視された。それに反発したものだった。

 日本の分担金は、ユネスコ全体の9・7%で2位だが、1位の米国が、パレスチナの加盟に反発して支払いをやめているため、日本が支払いを長期間保留すれば、影響は大きい。

 昨年、中韓や日本などの民間団体が、慰安婦問題の関連資料も記憶遺産とするよう申請し、年初めからその審査が行われる。日本は、審査の透明性確保など、制度の改善を強く求めている。大事な時期である。

 だが、結局例年4~5月に行っている分担金支払いを、昨年末まで延ばしただけで終わった。覚悟は少し示せたが、オズオズと中途半端だった。

 対韓国の矛の収め時について、 岸田外相は「総合的に判断」して決める、と言う。ここでも日本の覚悟を示せた。だが、そのショック療法が明白な治療効果をもたらさない場合、どのタイミングで、それを終了するか。韓国政府が、日韓合意の履行のため、なんらかの具体的方策を少しでも打ち出せ、それを日本がサポートできるようなタイミングをつかめればよいのだが、親北陣営に、「日本の無法な措置を跳ね返した」と凱歌(がいか)を上げさせるだけでは、望ましくない。