オバマ大統領を見下す中国

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

核合意無視するイラン
ロシアからはサイバー攻撃

 米国大統領は威厳に満ちたエアフォースワンで着陸すると、扉が開き、用意された移動式のタラップを堂々と降り、レッドカーペットを敷いたアスファルトの上に立つはずだ。だが、タラップは用意されていない。やむなく飛行機の「おしり」部分から外に出た。中国の専門家の言葉だが、不適切だ。

 これは3日に杭州の空港で起きたことだ。中国でのことだ。中国人が外交儀礼というものを考案していなかったら、これをした中国人らは、尊敬すべき、経験豊かな人々ということになっていただろう。中国では4000年前から外交儀礼が守られてきた。朝貢のためのあらゆる儀礼、格位を示す儀式での微妙な違いに通じている。儀礼に対して非常に神経質な土地柄であり、移動式タラップが到着セレモニーでたまたま準備されなかったなどあり得ない。実際に、到着時に機内で足止めされたG20の首脳はほかにはいなかった。

 習近平国家主席が直接、空港職員や外務省職員らに、適正な迎え方をしないよう命じたのか。それは誰にも分からない。しかし、意図的であっても、そうでなくても、その意味するところは非常に重大だ。中国当局で反省はなされず、当然ながら謝罪もない。それどころか、この冷遇を報じないとマスコミを批判した。

 驚くようなことではない。中国のこれ見よがしな非礼は、世界全体がオバマ大統領を見下げていることの反映以外の何物でもない。世界の国々は「国際的な義務」を果たすべきだというオバマ氏の高尚な説教は受け入れられていない。むしろいら立たせている。

 各国の指導者らは、何をしてもしっぺ返しがないことを知って、オバマ政権の高慢の鼻をへし折ることで一致した。2013年5月、ロシアのプーチン大統領は、米国務長官を執務室の外で3時間待たせた。オバマ氏がイランとの核合意を大きな突破口として歓迎した時は、「米国の尊大なやり方」に真っ向から反対するイランの最高指導者は、方針に「変更はない」ことを誓った。イランのイスラム指導者らはその後、合意に反して弾道ミサイルの試射を公然と行った。オバマ氏が何もしないことを知った上でのことだ。イランがペルシャ湾で10人の海軍兵らを拘束し、ひざまずかせ、動画を公表した時、米国はどう対応しただろう。解放時に、ケリー国務長官はイランの善意に対して公式に謝意を表明した。

 習主席がオバマ氏に敬意を払う理由がどこにあるだろう。中国は不法に南シナ海に進出しているが、米国からの反応は形ばかりのものだ。オバマ氏はCNNで、習氏にやめなければ「相応の結果を招く」と警告したと語った。こんな頼りない警告があるだろうか。

 プーチン氏がクリミアを併合するとオバマ氏は、ロシアを孤立させたと自慢げに発表した。さまざまな問題を抱え、外部からの支援を必要とする中東各国の指導者らはロシアをこぞって訪れている。ウクライナに関しては、フランスの大統領とドイツの首相がモスクワを訪問し、プーチン氏に和平を求めた。ロシアは孤立していたはずなのだが。

 イランはペルシャ湾で米艦船への妨害を繰り返している。ロシアの戦闘機が黒海で米駆逐艦に接近し、7日にはロシアの戦闘機が米軍機に3㍍の距離にまで接近した。米国からの報復はない。このような挑発行為は危険でプロ意識に欠けると注意されただけだ。労働安全衛生局(OSHA)の召喚状の方がもっと迫力がある。

 それに加えて米国は、イランが拘束した捕虜に身代金を払い、足の付かない現金の束を飛行機に乗せてひそかに届けた。まるで砂漠での麻薬取引のようだ。これは明らかに、この取引を議会と国民の目から隠すためだ。あまりに奇怪で、屈辱的で、オバマ政権の身内ですら見逃さなかった。

 そして今回のことがあった。G20でオバマ氏は、プーチン氏にサイバー戦について話したと言った。ロシアのハッカーが米国の政治運動に干渉していることが明らかになっていた最中のことだ。オバマ氏は、米国は、攻撃でも防衛でもこの分野ではどの敵対勢力よりも技術的に進んでいるが、冷戦時のような武装競争を繰り返したくないと言った。

 その一方で米国は、国際的な行動規範を順守しなければならない。

 悲しいことに、このKGBの悪党は規範には従わない。ウクライナに侵攻し、クリミアを併合し、アレッポの病院を爆撃したプーチン氏に、サイバー世界のエチケットを守れと言えるのか。セキュリティーを守るためにこの技術的優位を、対抗手段や脅しとともに生かすこともしない。

 米国は、ヘンリー・スティムソン国務長官が、日本の電信を解読した米国の暗号解読作戦を放棄した1929年に後戻りした。スティムソン氏が「紳士は他人の郵便は見ない」と言った話は有名だ。

 だが、プーチン氏は紳士ではない。メールも盗み見している。

(9月9日)