トランプ氏が移民退去を撤回

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

国境管理の強化が必要
問題の最終的解決は合法化

 ドナルド・トランプ氏の移民政策をめぐるどたばたが一つ役に立ったことがあるとすれば、移民政策が最終的にどこに落ち着くべきかをはっきりと示したことだ。

 メキシコのどうしようもないくずに国境を開いた、弱気で、優柔不断で、愚かな政治家らのせいにすることはできる。このくずを捕まえて、送還することは可能だ。そうすることで、共和党予備選で大量の票を獲得できるようになるかもしれない。

 しかしそれも、最終的には無理だということが分かるはずだ。トランプ氏の言葉は扇情的で、矛盾だらけだが、フェニックスで31日に訴えたことはまさにこれだ。「国外退去タスクフォース」で、犯罪を犯した移民を捕まえるということだが、これは、オバマ大統領が移民取り締まりで最優先にしてきたことであり、ずっと、移民対策のアリバイ作りだと攻撃されてきた。

 犯罪を犯していない不法移民はどうしようというのだろう。これについてはトランプ氏は諦めている。「適切な解決策」を数年内に見つけ出し、「不法移民を完全になくす」と言うが、これがどういう意味かは誰もが知っている。いずれにしても、移民は滞在を許されるということだ。

 トランプ氏が後退したことで、唯一の現実的な解決方法への道が見えてきた。取り締まりと合法化だ。取り締まりに必要な方策はすでに分かっている。Eベリファイシステムで不法滞在者が働くことをほぼ不可能にする方法や、国境パトロールの強化、ハイテクを使った追跡などだ。

 トランプ氏のおかげで、一つの方法が注目された。国境壁だ。これなら反対は出にくい。侵入を防ぐために歴史的にも使われてきた方法であり、確実だ。サンディエゴの外に3重のフェンスを巡らすことで、侵入を90%減らすことができた。イスラエルのヨルダン川西岸との境界壁でも、イスラエルへのテロ攻撃は減少した。

 主な反対は象徴的だ。よく言われるように、壁は収容所をイメージさせる。しかし、それは閉じ込める場合だけであって、侵入を防ぐための壁である場合は違う。

 市街地の壁の歴史はエリコにまでさかのぼる。これは侵入を防ぐためのものだ。聖人ぶった欧州の人々でさえこの点は認め、ハンガリー、マケドニア、ブルガリア、オーストリア、ギリシャ、スペイン、なぜかノルウェーまでもが、中東からの移民の波を食い止めるために国境にフェンスを設置し始めた。

 もう一つの移民問題への対応は合法化だ。すでに1100万人いる不法移民をどうするか。理論的に考えれば、打つ手はない。砂漠の国境を越えて入ってきた世代が、いずれ米国内で生まれた子供たちに取って代わられ、自動的に滞在が合法となることで、この問題は自然に解決される。

 しかし正式に合法化するには政治的な対応が必要だ。それには民主党の賛成が必要になる。自称人道主義者か強い党派主義を持つ民主党は、あれこれ理由を付けて、国境管理の強化を支持しない。移民合法化は、すなわち現状維持だ。移民を「日陰から」連れ出したいなら、取り締まり強化を受け入れるしかない。

 このような合意が交わされれば、大多数の国民の同意も得られるだろう。今の世代が最後だということがはっきりすれば、米国民は現在の不法移民を受け入れるはずだ。

 これは、1986年のレーガン政権による合法的地位の付与の前提だった。約300万人の移民を合法化した。ところが、国境管理を強化しなかったために、1100万人になってしまった。

 「8人組」が失敗したのはそのためだ。優先順位の付け方を間違ったのだ。左派は、まず合法化することを主張した。共和党の8人組は最終的に、これを不承不承受け入れた。民主党が議会を支配している当時、これが最善策だと判断したからだ。これはこれで正しかった。

 問題は、合法化するともう後戻りはできないというところにある。合法化は予定通り実行されたが、取り締まりはただの約束でしかなかった。

 いずれ共和党で合意が形成されるだろう。トランプ氏は大量国外退去処分を諦めた。つまり、取り締まりを強化することに集中するということになるが、すでに米国内にいる難民をどうするのかについてトランプ氏は、8月31日時点で触れておらず、その前週には「ケース・バイ・ケース」で対処すると言っている。

 トランプ氏が一度は退去を主張しながら、撤回したことはいいことだ。怒鳴り散らしていたタフガイですら、「誰も傷つけたくはない」と撤回せざるを得なかった。

 しかし、最終的な国民合意にはまだ至っていない。なぜ、合法化の議論を先延ばしするのか。今すべきだ。不法移民の流れを大幅かつ確実に抑えられれば、すぐに合法化を自然なかたちで進められるようになる。

 どこに反対する理由があるのか。すぐに始めるべきだ。ギブ・アンド・テークであり、これが取引というものだ。

(9月2日)