国連での闘い、敵国条項の幽霊退治を

yamada

 今年末退任する潘基文・国連事務総長の後任をめぐる争いが、進行している。安全保障理事会が総会に勧告する候補を選ぶため、7月から2回、11人の候補者に対し非公式予備投票を行った。3回目は29日だ。2回とも1位はグテレス前国連難民高等弁務官(元ポルトガル首相)だったが、過去東欧から事務総長が出ていないし、女性待望論も強く、東欧の女性が有利との声がある。その点で注目されているのが、ボコヴァ国連教育科学文化機関(ユネスコ)事務局長(元ブルガリア外相)だ。

 カギを握るのは、当然常任理事国(P5)である。「セクレタリー・ジェネラル」(事務総長)が「セクレタリー」(事務官)に徹するか、より積極的に「ジェネラル」に行動するかが問題だが、P5は常に前者を好んできた。

 でも、現に世界で火種をまいている中国やロシアにべったりのセクレタリーでは困る。ボコヴァ氏は超親中派だ。彼女は昨年、中国が申請した「南京虐殺文書」の世界記憶遺産への登録を、日本の抗議を無視して認めるなど、中国と蜜月関係を築いてきた。中国の抗日戦勝70年記念式典にもちゃんと出席している。

 非常任理事国の日本は、米国や他の理事国と連携、できるだけ中立で、改革や解決に積極的な人物を選ぶよう、努めるべきだろう。

 国連総会は先月また、安保理改革の重要部分を継続審議としたが、それとは別に、日本が放置できないのは、国連憲章の「敵国条項」の問題だ。

 憲章53条、107条は、第2次大戦で連合国と戦った国を「敵国」と規定し、戦後措置に敵国が反した場合や、敵国の侵略政策の再現を阻(はば)むのに必要な場合、連合国は強制行動(軍事行動)を取れると定めている。敵国は日独など7カ国だ。

 日本は長く同条項削除を求め、95年の総会で、削除作業開始が決議された。05年の国連首脳会合でも、削除への決意が再表明された。

 だから敵国条項は死文化したという。

 だが、削除作業は全く進んでいない。4年前、中西輝政・京大名誉教授は、「中国が、敵国条項を日米安保無効化の“必殺兵器”と考えている可能性」を指摘した。

 事態は今一層深刻化し、中国の軍艦、公船、海上民兵船、空軍機が、尖閣諸島周辺に押し寄せている。中国、ロシアの外相や高官が、「日本は敗戦の歴史を反省していない唯一の国だ」とか「敗戦国が戦勝国の領土を占領するなどもってのほか」と説教する。不吉な感じだ。

 中国は「歴史戦」も仕掛け続ける。慰安婦像など敵国条項の心理的な影は、世界に広がっている。

 中国を徒(いたずら)に“逆敵国視”すべきではないが、国際法を紙くずにして南シナ海に投げ捨てる国には、国連憲章を口実に利用するなど朝飯前だろう。対処しなければならない。敵国仲間の協力も得て、国連と世界で、在外公館を動員し、敵国条項早期削除の大キャンペーンを実施すべきではないか。

 日本の国連分担金は、まだ米国に次ぐ第2位だ。分担金問題を敵国条項削除と絡めるような重い戦術も考えてよい。

 ユネスコでは米国が拠出を凍結し、日本が最大の拠出国。昨年、南京記憶遺産登録に反発した日本政府は、拠出一時凍結など断固たる措置を検討すると伝えられたが、まだ動きはない。

 40年以上前、国連を田舎の信用組合と評し、クビになった大臣がいた。それほど日本人は国連を重視し、協力すべき場と考えてきた。しかし、そこは政治力学の闘いの場でもある。日本も闘い、死文化条項の幽霊が暴れ出さないよう押さえ込もう。

(元嘉悦大学教授)