中国ルールに対抗 日本は開発支援と台湾との協力強化を
今月、シンガポールでのアジア安保会議で、孫建国・中国軍副参謀長は、ハーグの仲裁裁判所から南シナ海問題で判断が出ても、「そんなものには従わない」と明言した。昔、「おれがルールブックだ」と言ったプロ野球名審判がいたが、中国のルールブックには、自分勝手に書き込んだ、力のルールしか記されていない。
1979年の中越戦争時から、中国は尊大だった。カンボジアの親中国の暗黒政権を打倒したベトナムに侵攻し、それを「懲罰」と称した。だが、幸いにというべきか、中国はまだ貧しく軍も弱体だった。
その尊大さは今や特大である。孫氏は「中国の立場は40カ国以上に支持されている」とも強弁した。
中国は援助の物量に物を言わせる。昨年、中国アフリカ協力首脳会議で、3年間600億㌦の援助を発表し、中南米諸国との初の首脳会議では、2500億㌦もの投資を約束した。40カ国の大半はその受益国だろう。
尊大・中国を抑制するのは難しいが、蔡英文新政権の台湾との関係をうまく強化して行くこと、中国の金力援助外交に対抗することは、重要なカードだろう。馬英九前政権の台湾は、歴史戦から尖閣諸島、南シナ海、沖ノ鳥島まで、中国別動隊の感があった。
蔡英文・台湾には、中国が、日米などの別動隊になることを警戒し、経済的、外交的圧力をかけ始めている。1月の台湾総統選挙の翌日、日本の駐中国大使を呼びつけたように、日本にも「一つの中国」原則から逸脱しないよう、くぎを刺し続けるだろう。
蔡政権は中国と正面対決を避け、「一つの中国」論と「二つの中国」論との間をうまくぼかしながら、日米などとの関係を強化しようとしている。米政界には、「米台関係をグレードアップし、中国抑止の重要カードとすべき」との声もある。日本も、グレードアップは無理でも、関係の実質的深化に努めたい。台湾にとり、中国との外交戦は厳しさを増す一方だ。今年1月、中国はアフリカのガンビアとの国交を回復した。4月、ケニアは不法滞在などで拘留していた台湾人45人を、中国に強制送還した。中国が国際会議への台湾の参加に横やりを入れたり、台湾への観光客を減らしたりしたら、台湾をサポートすべきだろう。
メディアも、尖閣近辺に中国軍艦が入ってきても、あくまで「対話」「お互いの意図を理解」「日中双方による地道な信頼醸成の取り組み」が大事(朝日社説)と繰り返すのでなく、もっと厳しく中国を批判すべきだ。
強引な政治的受注もあり、中国のインフラ輸出攻勢がどこでも順調に行っているわけではない。中米の大運河建設計画は資金難で立ち往生し、ベネズエラの高速鉄道建設も無期延期となった。メキシコやタイでも、中国が高速鉄道建設を受注した後、問題が生じている。
中国が最近特に熱心なのがこの高速鉄道建設で、欧州や韓国も含め受注大競争時代と言われる。日本の鉄道輸出関係者は「日本は建設後のケアも重視するので、国内外の高速鉄道建設ラッシュとなると、技術者が絶対足らない」という。それでも中国との受注戦には負けてほしくない。技術、安全面で日本が優れているし、高速鉄道に中国ルールブック作成を後押しさせたくない。
8月末、日本が主導する第6回アフリカ開発会議(TICAD)がケニアで開かれる。多少出血サービスでも、中国を圧倒する中身の濃い開発支援を打ち出し、中国のルールブック作りへの問題認識を広げる機会にもしてもらいたい。
(元嘉悦大学教授)






