大統領選の鍵握るサンダース氏支持者
左傾化する共和、民主
抜け目ないトランプ氏
【ワシントン】今回の選挙は皮肉なことが多い。米国は、リンドン・ジョンソン以来最もリベラルな政権の8年目に入っている。予備選挙では、全米が不安と怒りに満ちていることが明らかになった。国内には停滞感が漂い、海外では失敗している。米国人の3分の2は、米国は誤った道を進んでいると思っている。ほぼ2期にわたるオバマ大統領のリベラリズムは失敗し、国家をむしばんできたが、共和、民主両党は大きく左に振れてしまっている。
ヒラリー・クリントン氏は、これまで表舞台に出ることのなかった自称社会主義者のバーニー・サンダース氏を排斥できなかった。そのため、貿易から医療保険まであらゆることで左翼に取り入らなければならなくなった。同時にサンダース氏は、非常に強固な反乱を起こし、オバマ氏に続いて、左派の政治革命の実行を呼び掛けた。
共和党の思想的転向も目立つ。党のリーダーとして国粋主義ポピュリストを選出した。保守主義への忠誠などみじんも見えない人物だ。実際に、ドナルド・トランプ氏はサンダース氏と同様、貿易、ウォール街、北大西洋条約機構(NATO)、介入主義など数多くの主要課題でクリントン氏の左にいる。
クルーズ氏、ルビオ氏、ケーシック氏は紆余(うよ)曲折はあるもののトランプ氏に近づいているように見える。一般投票での焦点は、この3氏の支持者らの動向ではなく、サンダース氏の支持者らの動向であることがはっきりしてきた。
当然ながら、ほとんどはヒラリー氏に票を投じる。一部は投票に行かない。だが、トランプ氏は、中西部の工業地帯でサンダースを支えてきたこれらの民主党員と独立派に対して、露骨にアプローチしている。
トランプ、サンダース両氏の支持者らには一つの共通点がある。大部分が白人という点だ。その訴えに共鳴したのは、経済的、社会的な混乱の中で苦難を味わってきたラストベルト地域の中産労働者階級だ。問題は、トランプ氏が、ミシガン州やペンシルベニア州のように過去6回の選挙で民主党を支持した一部の州を転換させ、レーガン・デモクラッツだったこれら有権者を十分に獲得できるかどうかに懸かっている。
クリントン氏がサンダース氏に比較的優しいのはそのためだ。サンダース氏を排除したいが、支持者は排斥できない。ネバダ州党大会でサンダース氏の支持者が騒動を起こし、サンダース氏が、ウェストバージニア州、インディアナ州、オレゴン州で勝利し、ケンタッキー州で事実上、引き分けた後だからなおさらだ。
米国政治では通常、支持表明は重要視されない。しかし、サンダース氏の支持者らは強固で、忠実だ。クリントン陣営がスーパー代議員を通じて指名を獲得しようとしていることに多少いら立っている。
クリントン氏は一般投票での強い支持を必要としている。党綱領の作成や副大統領の選出を慎重に進めていかなければ、サンダース氏の支持者はフィラデルフィアでの大会の後、まったく姿を消してしまい、クリントン氏には、自身の支持者だけが残される可能性がある。これだけでは足らないことは、最近の予備選の敗北ではっきりしている。
クリントン氏は、11月まではサンダース氏の支持者を引き付けておかなければならない。それには少なくとも、サンダース氏が支持者らに、トランプ氏の誘惑に負けないよう警告させる必要がある。
トランプ氏の勝利への鍵もここにある。オハイオ州やフロリダ州のように重要な激戦州に、民主党の強い工業地帯の州を加え、選挙人団を勝ち取る必要がある。
それに対するクリントン陣営の戦略は、広範囲の支持層をもとにしている。トランプ氏への不支持率は大きい。ヒスパニック系の間で79%、非白人の間で73%、若者の間で72%、女性の間で64%、全体では57%もある。
どちらのシナリオが説得力があるだろうか。今有利なのは明らかにクリントン氏だ。民主党支持州を転換させることも、不支持を減らすことも難しい。
しかし、ワイルドカードがある。どのような結果になるか予測はできないが、避けるのは難しいようだ。今後半年の間に重大な危機に直面することになりそうだ。2008年9月の金融危機で、オバマ氏の勝利が確実になった。新人でありながら、ベテランのジョン・マケイン氏よりも冷静に着実に対応したからだ。
今回はトランプ氏がテロ攻撃に対してうまく対応した。露骨な移民排斥主義者、恥を知らない扇動者だが、政治的には抜け目がなく、サンバーナディーノでテロが起きると、全イスラム教徒の米国への入国を禁止することを求めた。民主党員、共和党指導者らから激しく非難されたが、トランプ氏への支持率は急上昇した。共和党の有権者の3人に2人が、イスラム教徒の入国禁止を支持したことが明らかになった。
戦術的に抜け目がなく、敵対感情、不信感をあおるのがこれほどまでにうまい候補者を甘く見てはいけない。普通ならクリントン氏が勝つ。しかし、投票日までに非常事態が起きれば、番狂わせが起きる。クリントン氏は備えておくべきだ。トランプ氏はそれをやるつもりだ。
(5月19日)






