徴兵入隊
地球だより
徴兵制度のあるタイで5月は新兵入隊の季節だ。
4月下旬ともなると、今年度入隊する新兵が5月1日の正式入隊を前に所属部隊に続々と出頭し、ロッカーやベッドを割り当てられ、軍服を支給される。
そして次に待っているのが、入隊者全員の頭の丸刈りカットだ。この通過儀礼は僧侶になる出家儀式にも似ていて厳粛なものだ。
出家時の丸刈りカットは、出家を祝う家族に見守られて行うのが常だが、入隊儀礼の丸刈りカットは、秋の田んぼで稲穂を刈り取るコンバインのような数をこなすパワーに圧倒される。
なお通年、徴兵検査は4月初旬に行われるが、今年は男性35万5938人の中から10万1307人が選出された。志願者が4万7172人おり、残りはくじ引きだ。このくじ引きの光景がすさまじい。入隊のくじを引いてショックのあまり気を失ったり、その場にへたりこみ号泣する人も珍しくない。
何しろ「不良少年は軍に徴兵し鍛え直せ」と言われるぐらい、兵舎生活は厳しい。早朝から行動を共にし、炎天下の中を走るなど自由時間はすこぶる制限される。休暇日以外はゆっくり昼寝する自由も友人や恋人と過ごす自由も制約される。
「楽しい、心地いい」を意味する「サヌック、サバーイ」を行動哲学とするタイ人にとって規律の厳しい軍隊ほど敬遠したい所はない。そうして鍛えられた多くの人は、軍隊生活に感謝こそすれ悪く言う人は少ない。しかし、そういう人でも、2度やるかと言われて、進んでやるという人は皆無だ。
(T)