大統領選で共和分裂の危機
健闘するクルーズ氏
結束強いトランプ氏支持者
【ワシントン】ウィスコンシン州の予備選で一番の話題は、テッド・クルーズ氏が13ポイントの差をつけて勝利したことだ。これによって、党大会での1回目の投票でドナルド・トランプ氏が勝利する可能性は下がった。トランプ氏は、1回目の投票で勝利しなければ、指名獲得は難しいとみられている。
それでも、この予備選で最も驚くべきは、トランプ氏の中核的支持者らの結束だ。根本主義的トランプ主義は依然、どんな表面的な動揺にもびくともしない。以下に挙げるような強い逆風にさらされながらも35%もの支持を獲得した。
-共和党員の間で80%という強い支持を受けた共和党の知事が不支持を表明した。4年間で3回(2度の知事選と1度のリコール)の選挙戦で勝利するほどの実力を持つ州内の有力組織が動員された。
-事情通の地元ラジオトークショーの人気司会者にインタビューを受け、徹底的にやられた。
-大量の資金が反トランプ広告に投入された。クルーズ陣営やクルーズ支持の政治活動特別委員会(スーパーPAC)だけでなく、二つのスーパーPACまでもが広告を出した。
ここまでやられれば、どんな候補でもつぶされていただろう。だがトランプ氏は、2週間にわたった攻撃で負った傷から立ち直った。攻撃を受けるのは自業自得だが、いまだに3分の1の代議員を握っている。トランプ氏は、五番街の真ん中に出ていって、誰かを撃つことがあっても票を失うことはないだろうと豪語している。
トランプ氏に関していつも感じる疑問がある。中核となる支持層以外のどこまで支持を拡大できるかだ。トランプ氏にとって問題は、確固とした反トランプ勢力があることだ。ウィスコンシン州では、共和党有権者の58%が、トランプ氏が大統領になることを懸念し、恐れさえ感じると言っている。
クルーズ氏を恐れている人も多い。しかし、クルーズ氏に対して懸念を抱いている割合は、トランプ氏よりも21ポイント低い。その上、ウィスコンシン州の共和党員に、一般投票にクリントン氏とトランプ氏が残った場合どちらを選ぶかと聞くと、36%はクリントン氏か第三党に入れるか、投票に行かないと答えた。
トランプ氏は、ウィスコンシン州の結果に対して取るべき対応を取らなかった。「うそつきテッド」はスーパーPACと不法に協力する「かいらい」「トロイの木馬」だと激しく非難した。これでは、35%の支持を50%にするのは無理だ。
トランプ派の人々は、そんなものは必要ないと言う。他の候補より多くの代議員を獲得してクリーブランドの党全国大会に行けば、当然、指名は獲得できるはずだと考えているからだ。
それは違う。過半数を指揮し、まとめることができなければ、党の指導者にはなれない。
ジョン・ケーシック氏は、全く逆だ。ここで踏ん張り、党大会で候補選びが行き詰まれば、クリントン氏と戦った場合に最も有利という調査結果が出ているケーシック氏に目が向けられることはあり得る。リンカーンが1860年の党大会に臨んだ時、強い支持は得ていなかった。
だが、1968年の改革で、知事、有力者、党幹部らが決定を下す制度は廃止された。現在では、第3位の候補、しかも56戦55敗と大差をつけられている候補にまで目を向けたり、もともと選挙戦に参加すらしなかった党の有力者を天下りさせることは、現代の指名プロセスの民主的精神に真っ向から対立する。
党の有力者を候補にすることは合法だが、不当とみられる可能性があり、強烈な反エスタブリッシュメント感情が渦巻いている中で自殺行為と言っていいほど軽率だ。
このようなことにならなくても、党の自殺行為となる可能性は確かにある。候補はトランプ氏かクルーズ氏だ。2人は最終的にどのようにして折り合うのか。
もう選挙だけの話ではなくなっている。個人攻撃だ。クルーズ氏は、トランプ氏が妻のハイディ・クルーズさんにしたようなことをする人物は支持できないと事実上、宣言した。トランプ氏の支持者との関係は修復しようとするかもしれないが、どこまでできるだろうか。クリス・クリスティー氏は誰を支持するつもりなのだろう。重要なのは、ウィスコンシン州予備選で、トランプ氏の支持層が強固であることがはっきりしたことだ。
トランプ氏が負けた場合、分裂は確実なものになる。トランプ氏自身は勝つと思っている。ずっとそうだ。負けたとすれば、それは不正があったせいだと言うだろう。トランプ氏は、公平に扱ってほしいとずっと言ってきた。党大会で指名を獲得できなければ、とてつもなく不公平だと主張するのは間違いない。第三党は必要ない。大量の支持者とともに党を出ていけば、11月の選挙で共和党の運命は決定的なものになる。
米国が正しい方向に向かっていると考える国民は25%しかいない。民主党のトップ候補は、酪農州出身の無名の社会主義者に追い上げられている。共和党が負けるわけがないと思うかもしれない。
だが、相手も本気であることを忘れてはいけない。
(4月7日)