安保理解しないトランプ氏
大統領選、4人の戦いへ
米の復活目指すクルーズ氏
【ワシントン】数多くの接戦が繰り広げられ、劇的な展開あり、露骨な反則ありの選挙戦の末、候補は4人にまで絞られた。サンダース、クリントン、クルーズ、トランプの各氏だ。世界が興味があるのは、どのような外交政策を持っているかだ。
①バーニー・サンダース、平和主義者
サンダース氏の平和主義は、一部は剣を鍬(くわ)にすき替える式のユートピア主義であり、一部は、放っておいてくれ式の孤立主義だ。それを象徴するのが、11月14日の民主党討論会だ。経済中心に議論が交わされると思われていたが、その前日、パリでテロが起きた。サンダース氏は、パリのテロについての質問で討論会を始めることに反対した。しかし、これは受け入れられず、最初の質問にテロに反対という当たり障りのない返答をするとすぐに、いつもの「一握りの大富豪」への強烈な批判を始めた。
サンダース氏は、イラク戦争に反対票を投じたことが自慢だ。1991年の湾岸戦争にも反対した。このような問題に直面するとサンダース氏は決まって、ほとんど反射的に反帝国主義/平和主義を持ち出す。介入するな、だが、それが避けられない場合は、誰かにやらせろということだ。
これは方法の問題だ。外交政策の目指すところはというと、常に世界的であり、普遍的で、何よりもまず気候変動だ。後は、福祉事業、善行としての外交であり、特に米国の帝国主義を放棄することだ。
②ヒラリー・クリントン、国際主義者
ウクライナからイラン、南シナ海をめぐるクリントン/オバマ外交は、明らかに失敗している。しかし、クリントン氏が大統領になった場合のことを考えると、クリントン氏はオバマ氏とは逆の助言をすることがよくあった。ほとんどの場合、オバマ氏より積極的で、攻撃的であり、これら助言は拒否された。その中でもよく知られているのが、2011年以降のイラク駐留継続や、シリア反政府勢力への早期の武器供与の主張だ。
リビアへの関与はクリントン氏にとって、人道的介入主義の壮大な試みだった。だがその後に起きた惨劇で苦労することになる。
クリントン氏の世界観は、伝統的な、ポスト・ベトナムのリベラルな国際主義だ。つまり、米国は世界が必要とする国だが、多国間主義と、ほとんど強迫観念ともいえるような過度の法律尊重主義によって力の行使を意識的に抑制している。歴史の中でこれに最も近いのは、1990年代のビル・クリントン氏の外交だ。
③テッド・クルーズ、単独行動主義者
これまでに挙げた候補者の中では最も攻撃的だ。冷戦後の米国の指導的地位の復活を望んでいる。必要なら、危険を冒し、単独で行動することも辞さない。イラン核合意を放棄し、米イスラエル同盟関係を強化し、「イスラム国」(IS)へのじゅうたん爆撃を仕掛けることを約束している。
クルーズ氏は、無能な同盟国や、国連のようなばかばかしい組織が行動するのを待ち、行動を遅らせることはない。
最も近いのは、ロナルド・レーガン氏だ。
④ドナルド・トランプ氏、重商主義。
米国を強くすることを約束した。そのためにはまず豊かにしなければならないという。国家を企業のように扱い、企業再建の名人として外交に携わることを約束した。今のままでは、先は見えず、お金ばかり掛かり、同盟国に利用され、吸い取られるばかりだというのだ。
サンダース、クリントン、クルーズ各氏の外交政策を、左から右までの思想的な傾向から理解することは可能だ。しかし、トランプ氏についてこれは通用しない。全く異質な空間に住んでいるからだ。地政学的な調和がない。すべてカネだ。同盟国や海外の基地を持つことに目的があることを理解していない。ただの金食い虫というわけだ。
スペインの帝国主義は、金を求めて世界をさまよい、略奪した。トランプ氏の提案は、国外からの富の移転という意味ではスペインと同じだ。
ここから、日本と韓国が駐留米軍の費用を負担しないなら、撤収すべきだという主張が出てくる。環太平洋地域の情勢や中国の覇権の拡大は視野にない。北大西洋条約機構(NATO)についても同じだ。ただ乗りの欧州の寄生虫も、もっと資金を負担しないと言うなら、捨てればいいという。ロシアの野心、侵害をめぐる懸念は、全く見えていない。
米国を豊かにするためだけのこの外交政策に例外が一つある。ISだ。トランプ氏の主張は単純だ。「爆撃で排除する」。ここでも、トランプ氏の重商主義への思いは変わらず、ISを壊滅させた後は、原油を確保するという。
歴史の中でこれに最も近いのは、スペインのフィリペ2世(在位1556~98年)だ。
来年1月20日に、この4人のうちの一人が大統領として就任の宣誓を行う。これらの四つの外交のうちの一つが、米国の外交となる。
知らなかったとは言わせない。
(4月1日)






