共和指名争いは3人の戦いに

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

依然優勢なトランプ氏

党の6割が保守主義を支持

 【ワシントン】政治の世界で「エスタブリッシュメント」という言葉が頻繁に使われている。軽蔑的に使われているが、大した意味はない。そのほとんどはドナルド・トランプ氏の支持者によるものだ。アイオワ州での敗北を正当化し、トランプ氏とテッド・クルーズ氏、そこにベン・カーソン氏を加えれば、60%もの票が反エスタブリッシュメントだと主張している。

 それがどうしたと言いたい。トランプ氏による反乱が共和党の脅威となっているのは、トランプ氏が反エスタブリッシュメントだからではない。保守派でないからだ。トランプ氏が指名を獲得すれば党内は混乱する。保守派は分断され、保守派政党としての共和党のアイデンティティーと役割は損なわれる。

 これはトランプ氏の問題ではない。問題は、あえていうなら、広く支持を受けているポピュリズムにある。クルーズ氏は反エスタブリッシュメントかもしれないが、筋の通った保守派だ。一方のトランプ氏は、一貫した政治哲学はなく、確たる信念もまるでない。奇抜な発想を持ち、矛盾した「考え」を同時に持つことができる人物だ。「人道的な」大量国外退去を訴えたかと思うとすぐに、移民が米国に返された場合はまとめて滞在許可を出すと言った。

 トランプ氏の突飛な考えが、細かなところまで分析されないのはそのためだ。全イスラム教徒の入国を禁止する、中国製品に45%の関税を課す、政府が「既存の病院と合意」を交わし、全国民に医療を提供するなどと言うが、誰も真剣には受け取っていない。トランプ氏の綱領の実態はすべて、同氏の人格そのものだ。どれも、トランプ氏自身が訴える力強さ、強靭(きょうじん)さ、才能、資金が生み出す不思議な現象だ。

 トランプ氏の綱領は、中南米の軍事独裁者のように信念に基づいている。ウィークリー・スタンダード誌のジョン・マコーマック氏は、「(サラ・)ペイリン氏の集会で、トランプ氏は、教育を地元で運用できるようにすると約束した。聴衆から『どのようにして』と声が上がると、『見ていてくれ』と答えた。つまり、何も考えていないが、ただ信じてくれということだ」と指摘した。

 クルーズ氏には確信がある。常に反エスタブリッシュメントの発言をしている。これは、自身の強硬な保守主義が評価されるのは、純粋なイデオロギーとしてよりも、固定化された利害に対する反抗としてアピールしたときであることを計算した上でのことだ。

 しかし、「ワシントン・カルテル」を非難することでトランプ氏の戦友になれると考えることは、戦術を誤らせることになる。確かに、クルーズ氏自身は2015年の間中、トランプ氏の後塵(こうじん)を拝し、元気があったとはいえない。しかし、それは過去の話だ。数週間前に終わった。

 1月以降、2人の蜜月は吹き飛び、クルーズ氏は反エスタブリッシュメントを装う必要がなくなった。アイオワ州で次の3点をめぐる2人の根本的な政治的相違がようやく明らかになった。

・トランプ氏の「ニューヨーク式(つまりリベラルな)価値観」。

・政府の権力。クルーズ氏はトランプ氏を批判するコマーシャルを出した。トランプ氏が政府に協力を求め、カジノの駐車場の邪魔になっている小柄な高齢女性の家を解体しようとしているコマーシャルだ。

・エタノール。クルーズ氏は、古典的な小さな政府を支持しており、エタノール補助金に反対を表明した。政府が勝者と敗者を決めるべきでないという主張からだが、一方のトランプ氏は「アイオワ州に多くの雇用をもたらす」としてこの補助金を支持した。

 アイオワ州党員集会で、共和党指名争いの構造が明らかになった。選挙戦を戦っている候補者は3人だけで、先週指摘したように、各候補者は異なる政策を代表している。トランプ氏の人格が反映された強気のポピュリズムと、二つの保守主義だ。マルコ・ルビオ氏の主流に近い保守主義とクルーズ氏の妥協しない強硬な保守主義だ。

 この党員集会の結果は、今後の共和党に影響を及ぼすと考えていい。トランプ氏のポピュリズムは24%、ルビオ、クルーズ両氏の保守主義は51%の支持を獲得した。二つの保守主義の間で、どちらが一般投票を勝ち抜き、効果的な政治ができるかをめぐって活発な選挙戦が行われる。しかし、「エスタブリッシュメント」の党指導者らの好みがどうであれ、ルビオ氏とクルーズ氏のどちらかが、共和党の基本となる思想的アイデンティティーを担うことになるのは間違いない。トランプ氏にはできない。

 トランプ氏はアイオワ州では負けたが、終わったわけではない。ニューハンプシャー州では有利な位置に立ち、どの州でも事実上、トップだ。長い戦いが待っている。

 アイオワ州で明らかになったことは、この選挙戦中に「エスタブリッシュメント」が敗北するようなことがあっても、共和党はトランプ式のポピュリズムよりも保守主義を2対1の割合で支持するということだ。つまり、レーガンの党として存続する可能性は、非常に高い。

(2月5日)