外交二冠獲得したオバマ氏
拘束力ない「パリ」協定
イラン核合意は見せ掛け
【ワシントン】オバマ大統領は12日、外交三冠の二つ目の冠を手に入れた。パリでの気候変動協定だ。すでにイラン核合意が交わされ、グアンタナモ収容所の閉鎖で輝かしいレガシー(遺産)が完成する。
念のために言っておくと、オバマ氏は気候変動協定を上院に提出し、批准を求めることはしない。提出しても、承認されることはない。イラン核合意も上院に提出しなかった。批准されるはずがないことを知っているからだ。グアンタナモを閉鎖すれば、共和、民主両党から強い抗議を受ける。
ケリー国務長官がパリから持ち帰った気候変動協定は、協定と呼べるものではなかった。各国が個別に一方的に炭素削減目標を掲げたにすぎない。
実行力も、制裁もなく、法的拘束力は一切ない。それは、ケリー長官が「FOXニュース・サンデー」で説明した通りだ。「この報告義務からコンプライアンスが重要視されていることが分かるが、確かに、実行しなくても罰則はない」
まったく訳が分からないという人は多いと思う。米国の二酸化炭素削減推進の第一人者である航空宇宙局(NASA)の科学者ジェームズ・ハンセン氏は、この協定全体が「たわ言」だと切って捨てた。
確かにそうだ。
この偉大なパリ協定は、世界的な「透明性」を確保したとされている。しかし、報告そのものの信頼性が低い場合はどう対処するのだろうか。ほんの3カ月前、世界最大の二酸化炭素排出国の中国が、石炭の消費量を17%過少報告していたことを認めた。意図的にごまかしたのかどうかは分からないが、大変な量であり、これはドイツ一国の石炭消費量に相当する。
私は気候変動不可知論者だ。だが、現実は見ているつもりだ。最悪のシナリオを回避するための思慮を拒否する気はない。以前から、多国間の合意を求めてきた。最も重要な関係国、インド、中国、欧州連合(EU)と交渉し、現実的な制限、数字、拘束力を備えた合意を交わすことだ。これができれば、目に見える結果が出せる。米国が一方的に実行することは、気候変動に効果はなく、経済的には自殺行為だ。
気候変動会議の196人の参加者らはパリで2週間にわたって過ごせ、満足したようだが、その結果はまるで無意味だ。中国は、今から15年間で、二酸化炭素排出量を減少に転じさせると約束した。インドは、2030年までに石炭火力発電所の発電能力を3倍にすることを発表した。一方でオバマ政権は、米国の石炭産業全体を着実に解体している。
米国がこの新しい環境保護体制をどう推進していくかについて指導力を発揮するなど可能だろうか。オバマ氏のもう一つの外交実績、イラン核合意について考えてみたい。
米国民は、イラン国会が核合意を承認していないことを知っているだろうか。イラン大統領が合意に署名していないことを知っているだろうか。イランは法的には一切、義務を負っていない。国務省が、下院情報委員会のポンペオ議員への書簡で認めたように、核合意は「条約でも行政協定でもなく、署名された文書でもない」。しかし、心配無用だ。成功するかどうかは、「法的拘束力があるかどうかや署名されたかどうかではなく、包括的な検証方法」と「イランが約束を果たさなかった場合に制裁を復活させ、強化する力」があるかどうかにかかっているからだ。
実際はどうなっているのだろうか。
イランは11月21日、核搭載可能な弾道ミサイルの2度目の試射を行った。これは、二つの国連安全保障理事会決議への違反だ。そのうちの一つは今回の核合意であり、この種のテストは8年間禁止されている。
それに対し米国はどう反応しただろうか。10月に最初の決議違反の試射を行った時、米政府は何もしなかった。国連で少しやりとりがあっただけだ。イランが違反すれば、断固とした対応を取ると何度も言っていたはずだ。ここでも心配は無用だ。パワー国連大使が議会公聴会で先週、「議論することが、国連のやり方だ」と言ったのだ。
がっかりだ。
政府の制裁の「スナップバック(復活)」という約束そのものが見せ掛けだったことは、最初からはっきりしていた。イランはそれを知っていた。だから、米国を見下し、毅然(きぜん)とした対応を取らないと予測した。2度の違法なミサイル試射を、制裁が解除される前であり、来年初め、凍結されていた資産1500億㌦を受け取る前でありながら、これ見よがしに実行したのはそのためだ。
外交政策の改革というレガシーが危険にさらされない限り、オバマ政権は無視するか、過小評価するか、言い訳するかしかしないことを知っているのだ。
架空の合意というレガシーだ。拡散も、違反もしたい放題だ。合意を順守していないのは、米国の方だ。
残るはグアンタナモだけだ。1カ月以内に、残る収容者の6分の1が釈放される。オバマ氏を止める者はいない。
(12月18日付)