支持基盤を排斥する共和党
墓穴掘り続ける民主党
混迷続く大統領候補指名争い
【ワシントン】まずは民主党の話から。
-大統領選で賃金の低迷、経済格差、広範囲に及ぶ景気低迷を非難しているが、過去7年間政権を担当してきたのは民主党だ。
-最有力大統領候補の支持は27ポイント下がった。誠意を疑われ、機密情報の取り扱いを誤った疑いがあり連邦捜査局(FBI)が調査を行っている。
-有力対抗馬は74歳の社会主義者で、議会での25年間、ほとんど目に留まることはなかった。ほかの3人の候補はまったく視界に入ってこない。
-唯一、代わりとなる候補として妥当と思われるのはジョー・バイデン氏だ。これまでに2度立候補して、失敗した。どうしようもないほど不器用で、失言を繰り返し、ずっと国中でからかわれてきた。
共和党にとってこれらは渡りに船だった。主導権を握った民主党が毎日のように墓穴を掘っていくのをさらに加速させるチャンスとなった。だが共和党候補らはこの夏、互いの個人攻撃に明け暮れ、この間にも国民の大部分の反発を招くような失態を続けた。
その最新の例がベン・カーソン氏だ。物腰は柔らかく、親しみやすそうな神経外科で、世論調査のトップ2人のうちの1人だ。カーソン氏は20日、イスラム教徒は米国の大統領になるべきでないと語った。
イスラム教は米憲法とは相いれないというのがその理由だ。だが逆に、カーソン氏の発言は憲法と相いれない。憲法に「合衆国のいかなる官職または信任による職務に就く資格条件として、宗教上の審査を課してはならない」と明示されているからだ。
イスラム教徒が法的に不適格だと言っているわけではなく、イスラム教徒に票を入れるべきでないと言っただけだと主張してもカーソン氏の擁護にはならない。重要な点を見逃しているからだ。憲法は単なる法的文書ではない。教え、導くためのものだ。権力を制限するためだけでなく、国家の精神性を示したものでもある。してはならないと言っているだけではなく、望むべきでないことも示している。修正第1条は、どのような考えも表現してよいと定めている。しかし、憲法の主要目的は、全体主義的な思考を抑制し、その正当性を否定することにある。
カーソン氏はその後、発言を撤回し、身分、民族、信仰を理由に否定する意図はなく、ただ思想を問題視しただけだと主張した。つまり、シャリア(イスラム法)の導入を望むイスラム主義者に大統領になってほしくないということだ。
同感だ。だが残念ながら、カーソン氏はそうは言ってなかった。インタビューで「この国を1人のイスラム教徒が治めることは、私なら支持しない」と語った。この「イスラム教徒」という言葉に、過激なとか、急進的なとか、イスラム主義的なとかいった適当な制限的形容詞を付けることは難しくなかったはずだ。なのにカーソン氏はしなかった。
だが、その直後の返答は適切だった。大統領候補に対して求めた「宗教上の審査」を議会議員候補には適用しないと語ったのだ。つまり「重要なのは、そのイスラム教徒がどのような人物で、どのような考えを持っているかだ」ということだ。この答えは、当然ながら適切であり、米国人らしい答えだ。大統領候補者についての質問にもこう答えるべきだった。
カーソン氏は迎合するような人物ではない。イスラム教徒大統領に関する発言は、カーソン氏の本音だろうと思っている。しかし、倫理面から考えればもってのほかだ。選挙なら普通、政治的なダメージを受ける。最有力候補の一人が、全米のイスラム教徒社会を侮辱することは、不注意からであっても、党にとって有害であることは間違いない。
もう一人の有力候補が、大部分の国民を排斥するような勇ましい発言をしていることを考えればなおさらだ。ドナルド・トランプ氏は演説を始めるとすぐに、メキシコからの移民を、麻薬を持ち込み、犯罪を起こす暴行魔と呼んだ。さらに、1100万人の不法移民を本国に送還するよう主張した。揚げ句の果てには、スペイン語の質問にスペイン語で答えるジェブ・ブッシュ氏を激しく非難した。
女性をめぐる問題発言もよく知られている。メギン・ケリー氏には、リツイートでふしだらな女と呼ぶなどして攻撃し、カーリー・フィオリーナ氏の外見を取り上げて侮辱した。
イスラム教徒、ヒスパニック、女性。次は誰だろう。
狂っているとしか言いようがない。一つの党がよろよろと破滅へと向かい、弱く、深く傷ついた大統領候補を選出しようとしている。もう一方の党は、内部で互いにつぶし合い、次から次に重要な支持基盤を排斥している。
まだ2015年の9月だ。
(9月25日)











