露の派兵に手をこまねく米
中東で影響力確保へ
プーチン氏がシリアを支援
【ワシントン】オバマ大統領と外交チームは今回も戸惑いを見せている。ロシアのプーチン大統領はなぜ、兵士と武器をシリアに投入しているのか。ケリー国務長官が3度にわたってラブロフ・ロシア外相に言ったように、事態を悪化させるだけだ。
ケリー、オバマ両氏は、クレムリンの屈強な男どもの真意を測れず、今回も意表を突かれた。だが、シリアでのプーチン氏の狙いは明らかだ。
1、中東でのロシアの影響力を見せつけ、支配的な影響力を持つ外部勢力となるため。プーチン氏の最大の野望は、四半世紀前に大国としての地位を失い、屈辱を味わったことに報復し、形勢を逆転させることにある。このことは、7年間にわたって、国外での米国の影響力の縮小を先頭に立って熱心に進めてきた現米国大統領には理解し難いようだ。
2、ロシアの古くからの主要同盟国を維持するため。アンワル・サダト氏が1972年にエジプトからソ連を追い出してからずっと、シリアのアサド政権は、ロシアにとって中東での主要な資産になってきた。
3、ロシア軍の勢力圏を拡大するため。ロシアはタルトゥスに海外で唯一の海軍基地を持っている。ラタキアにはロシアの飛行場がある。現在、拡張作業が進められており、戦車、装甲兵員輸送車、榴弾(りゅうだん)砲、1500人を収容可能な住宅が持ち込まれている。地上軍が今後、入ってくるのは間違いない。
4、米国人を追い出すため。プーチン氏にとって地政学はゼロサムゲームだ。ロシアが勝てば、米国は負ける。この非常に厳しい状況の中で頼りになるのは誰なのかを見せつけようとしている。オバマ氏はクルド人を軽くあしらい、イラン核合意で同盟国をひどい目に遭わせ、イラクで「増派」時に支援してくれたアンバル州のスンニ派を捨てた。一方でプーチン氏は危険を冒して、同盟国シリアを助けるために地上軍を送る。
オバマ氏は、アサド大統領は去るべきだという。化学兵器でレッドラインを引いたものの、何もしなかった。ロシアは、苦境に陥った同盟国を助けるために行動する。どちらに付きたくなるだろうか。
5、シリアにとって不可欠な存在となることによって、ポスト・クリミアのロシアを再度、正当化するため。見事な玉突きだ。プーチン氏は来週、国連で、対「イスラム国」連合の核心メンバーとしてロシアを売り込む。オバマ氏の見せ掛けだけのポチョムキン戦争は、ほとんど効果を上げていない。5億㌦を投入した地元戦士訓練計画は、幽霊兵士を生んだだけで、実際の兵士はこれまでに5人しかいない。空爆も申し訳程度だ。プーチン氏は、ロシア、イラン、ヒズボラが聖戦主義者との戦いの先兵になることを申し出る。
プーチン氏の提案は明らかだ。アサド政権との戦いをやめて、ロシアを主力選手として受け入れ、ロシア・イラン・ヒズボラに地域的覇権を認めるよう求め、最前線で「イスラム国」との戦いを主導すると訴える。
それだけではない。表明されてはいないが、プーチン氏の作戦の最もよく考えられた部分は、欧州難民危機への緩和策にもなるというところだ。
欧州の人々は、罪悪感と恐怖に見舞われてどうすればいいか分からなくなっている。プーチン氏はそれに対する解決法を提示する。戦争を終わらせ、難民もなくなる。シリア内戦を終わらせ、欧州になだれ込む難民を止めるだけでなく、シリアに帰還させる。
プーチン氏はロシアの配下の勢力、つまり、一部の「健全な」反対勢力を取り込んだアサド政権を据えることで、戦争を終わらせ、難民問題も解決すると主張する。
何とも皮肉な話だ。結局、難民を押し出しているのは、戦争であり、戦争を主導してきたのはイランとロシアだからだ。物資、資金を提供し、今度は兵士を送って火に油を注ごうとしている。放火魔と消防士の一人二役だ。
だが、難民の大部分は、「イスラム国」から逃れてきた人々ではない。「イスラム国」の残虐ぶりには目を覆うばかりだが、その標的の大部分は少数派、キリスト教徒やヤジディ教徒だ。だが、そのほとんどはすでに「イスラム国」の支配地域から「浄化」されてしまった。欧州の収容施設はアサド政権の残虐行為を逃れたシリア人であふれている。アサド政権が、砲弾、塩素ガス、くぎを詰め込んだたる爆弾で国民を攻撃してきたからだ。
プーチン氏がこれを助けるという。化学兵器の混乱の時のように、またしゃしゃり出てくる。西側がこれを受け入れれば、ロシアは重要なパートナーとなる。軍事、外交面での調整が始まる。シリアへのロシアの介入強化をめぐる交渉で合意したばかりだ。ポスト・ウクライナの孤立は解消され、イランとともにこの地域で重要な役割を担うことになる。
プーチン氏の戦略は最終的には成功しない可能性はあるが、事態は非常に深刻だ。輸送機コンドルがまた、戦車、海兵隊員らをラタキアに運んでくるようなら、ホワイトハウスはいつまでも考え込んでばかりはいられない。
(9月18日)