イラン強硬派助ける米政府

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

国際制裁の復活は困難

共和党を非難するオバマ氏

 【ワシントン】最新のキニピアック大学の調査によると、米国民は2対1以上の割合でオバマ大統領のイラン核合意を拒否している。驚くべきことだ。国民は普通、大統領の主要条約は支持するものだからだ。ほんの数週間前は、支持が多数派だった。

 何があったのだろうか。条約の内容が分かってしまったのだ。

 世論調査が、問題となっている政府の主張をそのごとく伝えているなどと思ってはいけない。ワシントン・ポスト/ABCの調査の質問を一つ例を挙げると、「国際査察官がイランの施設を監視し、イランが合意に違反すると、経済制裁が再度科せられます。この合意を支持しますか」というものがある。

 読んで字のごとしだが、こういった記述は、偏向しており、誤解を招く。国民の意見、さらに議会の考えは変わるものだ。

 査察とはどういうものか。テキサス州の2倍の面積があり、隠蔽、欺瞞(ぎまん)の前歴がある国の極秘計画が対象であり、「いつでも、どこでも」でなければならないはずだが、すでに明らかになったように、「24日前に知らせて、それから抜き打ちで行う」というものに変わった。コメディアンのジャッキー・メイソンも言っているが、ニューヨークのレストランへの立ち入り検査の方がイランの核査察よりも厳しい。

 制裁の復活についてはどうか。国際的な制裁は一度解除すると、復活させられないことは誰もが知っている。その上、オバマ大統領の言っていることは筋が通っていない。アメリカン大学での5日の演説の本質は、ウィーンから持ち帰ったものがだめなら戦争しかないというところにあった。制裁では、議会が要求している厳しい制裁であっても、イランを止めることはできないというのがその理由だ。だが、制裁が効果がないというなら、制裁で脅せばイランは隠蔽をやめるという根拠はどこにあるのか。おまけに、復活させたとしても、既存のものより弱く、抜け穴の多い制裁となることは不可避だ。

 そして、イランと国際原子力機関(IAEA)の間の秘密付属合意のニュースが出てきた。これらの合意は、過去の核活動と、イランが核起爆装置の試験を行ったのではないかと疑われているパルチン軍事施設の査察に関するものだ。

 この付属合意の内容は分からない。政府は、誰にも知らせないと言う。だが、IAEAの合意が秘密とされるのは「通常の慣行」の場合だ。

 だが、この合意は通常の慣行ではない。歴史的に非常に重要な合意だ。議会は、査察計画の核心部分を知らされないまま、この「歴史的外交的突破口」(オバマ氏)を承認することを求められている。

 議会にこれらの付属合意の内容は知らされない。しかし、イランは知っている。イラン最高指導者の最高顧問アリ・アクバル・ベラヤチ氏は3日、「軍事施設に入ることは完全に禁止する」と宣言した。

 秘密の付属合意では、パルチンの土壌サンプルをイランに提供させることが可能になっている。だが、人工衛星からの画像を見ると、イランはこうしている間にも、パルチンを更地にし、痕跡を消している。検証計画は茶番となった。

 この悲喜劇は今、議会の手にある。正確に言えば、議会民主党の手にある。オバマ氏がアメリカン大学で行った演説に多くの民主党議員らが反発しているからだ。オバマ氏はどうして、この問題を党派的な問題にしたがっているのか。戦争を起こそうとしている共和党が、平和をもたらそうとしている大統領を攻撃しているという構図にしようとしているのだ。オバマ氏は見下すような態度で、「アメリカに死を」と叫ぶイランの「強硬派」と「利害が共通している」と共和党の党員集会を非難した。

 個人攻撃のようなものだ。気にすることはない。妄想だ。オバマ氏は、「アメリカに死を」と唱える強硬派がKKKの分派のようなものだと本気で考えているのだろうか。ひどい話だ。相手は政府だ。革命防衛隊から最高指導者ハメネイ師までが一つとなったイスラム共和国という国家であり、何十年にもわたってこの「アメリカに死を」というフレーズを宣伝し、推奨し、称賛してきた。

 イラン強硬派との共通の利害と言うが、最も大きな共通の利害を持つのはオバマ氏本人だ。イランは長い間、周囲の非難を無視して勝手に核兵器開発計画を進め、国連安保理から何度も制裁や禁輸を科せられてきた。オバマ氏はそのイランに、核開発計画を合法化するという褒美を与え、通常兵器と弾道ミサイルの禁輸を解除しようとしている。さらに、資産の凍結解除で1500億㌦もの資金を注入し、原油輸出の制限を解除し、国際金融機関にもアクセスできるようにして、経済を復活させる。イランの大統領は制裁下の経済を「石器時代」への後戻りだと表現していた。

 抑圧的で、不寛容で、攻撃的で、反米に取りつかれ、世界屈指のテロ輸出国のイランはこの合意で、かつてないほど強く、強固になる。

 利害の一致とはこのことだ。

(8月7日)