危険なイラン兵器禁輸解除

Charles Krauthammer米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

国連制裁の復活は困難

同盟国と米海軍の脅威に

 【ワシントン】コラムを書くとき、同じ問題について再度書こうとは思わないものだ。私は2週間前、コラム「外交史上最悪のイラン合意 」を書いた。最悪の事態になったとその時は思った。そして14日にイラン核交渉の最終合意が公表された。私は間違っていた。

 通常兵器と弾道ミサイルの禁輸措置を解除するなど誰も思っていなかった。核に関する交渉だったはずだ。

 オバマ大統領は15日の会見で、イランが拘束している4人の米国人について合意が触れていない理由を聞かれると、別の懸案であり、核交渉には含まれないと答えた。

 通常兵器は別の懸案ではないのか。通常というのは核ではないという意味のはずだ。にもかかわらず、なぜ禁輸を解除するのか。

 それは、イランが、米国の「リセット外交」の相手国ロシアとともに、土壇場で要求を出してきたからだ。イランは、オバマ氏とケリー国務長官が合意を成立させることに必死であるために、譲歩すると考えた。実際に譲歩した。5年から8年、解除を遅らせたのだから米国の勝ちだと自身に思い込ませた。だが、文言はあいまいで、期間はかなり短い。

 オバマ氏は15日の会見で、イランのヒズボラなど武器輸送はいつでも阻止できるのだから禁輸解除は重要ではないと語った。

 だが、待ってほしい。オバマ氏は一貫して、現在のイランとの交渉は武力の行使を回避するためのものだと言ってきた。ところが今は、のんきにこれまでの外交成果を捨てて、いつでも阻止できるからと言っている。

 だが一番重要なのは、イランからの兵器輸出ではなく、イランへの兵器輸入だ。ロシアと中国の先進兵器が入手できるようになる。これはどうにも手を付けられない。ロシアと中国から輸送されるものを攻撃することはできないからだ。

 この譲歩によって、イランから脅威を受けてきた中東の同盟国が危険にさらされるだけでなく、ペルシャ湾の米海軍が危険にさらされることにもなる。イランが最新の対艦ミサイルを入手すれば、ペルシャ湾とホルムズ海峡の管理が難しくなることは明らかだ。ホルムズ海峡は、米国が半世紀にわたって守り抜いてきた国際交易路だ。

 また、欧米側が求めてきた「いつでも、どこでも」できる査察にも大きな影響が及んでいる。最終合意でイランは、申告していない核施設への国際査察団の進入を拒否する権利を得た。拒否できるかどうかは、イランが参加する委員会で決められる。その後、ほかの複数の機関で審査を受けるが、そのすべてにイランが参加している。査察の要求が通ったとしても、承認まで24日かかる。

 24日もたてば、きれいに処理され、何も見つからないだろう。プロセス全体が見せ掛けだ。

 舞台は今後、議会に移る。この審議は重要とされているが、実はそれほど重要ではない。

 議会が表決を行うのは9月になる。だが、オバマ氏は短期間で国連安保理に提出し、承認を求める。ここで承認を受けると、イランの核活動を禁止し、制裁の対象としてきたすべての国連決議が破棄される。

 つまり、議会がどういう結論を出そうと、あまり重要ではない。イランに対するすべての国際的な制裁の法的裏付けは、安保理で破棄されるからだ。10年間にわたって大変な手続きを経て築き上げられてきた国連制裁は、一夜で消滅し、後には戻れない。

 議会が合意を拒否したとして、欧州各国、中国、ロシアが制裁の復活を受け入れるだろうか。あり得ない。その結果、米国以外の国々がイランとの取引で繁栄する一方で、米国は取り残されることになる。

 議会はここで諦めるべきなのか。それはできない。議会は、少なくとも国内の法に照らしてこの合意を違法としておく必要がある。合意を否決しても、現実的にはそれほど変わらない。しかし、次期大統領が、議会両院で十分な支持を得られなかった行政協定の正当性を見直しやすくなる。オバマ氏はこの合意を条約とはあえて呼ばない。条約となると直ちに上院で拒否されるからだ。

 将来のことにはなるが、この厳しい状況の中で残された一つの希望だ。それまでにイランは、潤沢な資金を手に入れ、普通のしっかりした基盤を持つ国際社会の一員として認められ、オバマ氏がかつて言ったように「成功した地域の大国」として受け入れられている。その時点で、イランの核保有を阻止することははるかに難しくなり、危険性も増している。

 これがオバマ氏の勝利だ。オバマ氏は自らが描いた愚かな夢にとらわれている。そうして残されたレガシーと、われわれは今後何十年間にもわたって付き合うことになる。

(7月17日)