外交史上最悪のイラン合意
譲歩続けるオバマ政権
「実績」を残したい大統領
【ワシントン】イラン核合意のコンセプトそのものに悪魔が潜んでいる。オバマ大統領は、イランとの合意を強く支持し、この狂信的なイスラム主義政権との間の緊張緩和が達成できるという空想的な信念を抱いている。だが、イランはもともと有害で腐敗し、米国の軍事力、影響力を中東から排除することを目指している。
オバマ氏は、イランを国際社会に受け入れられる普通の「成功した地域の大国」にしようと、核交渉に取り組むことを決めた。イラン政府は当時、10年にわたって慎重に構築されてきた国際的な制裁のもとで、通貨の下落、インフレの高進、景気の悪化に苦しんでいた。
そこでオバマ氏は、制裁を強化し、イスラム聖職者らへの圧力を強化しようとする議会の取り組みを受け入れず、制裁を緩和し、イラン経済に巨額の資金を注入し、ウラン濃縮の権利を事前にイランに認めることで交渉を開始した。イランへの資金の流入は2014年に増加に転じている。
そこからは下り坂を転げ落ちるようなものだ。オバマ氏は、核合意を後世に残す実績にしようと周りに強く働き掛け、受け入れ可能な合意には欠かせないと自身が言っていたすべてのレッドラインを放棄してしまった。
査察
いつでも、どこでも実施できるはずだった。今では完全に崩壊している。無制限のアクセスは、「管理されたアクセス」になってしまった。今後、核査察官は査察を行う際に、交渉し、イランの承認を受けなければならなくなる。拒否することも、時間稼ぎをして秘密の活動を隠匿することもできる。
米政府はこの敗北を強調するかのように、イランの弁護士としての役割を果たし、「米国は誰であれ軍事基地に入ることは認めない。従って基地に入ることは不適切な行為となる」とまで説明した。米国と最大のテロ輸出国とを事実上同列に扱うことなどあってはならないことだが、さらに自由なアクセスが査察には不可欠だと何度も主張しておきながら、1年7カ月たってイランの言い分をまねするというのはどういうことか。
過去の核活動に関する情報公開
1年7カ月間行われてきた交渉で得た現在の暫定合意は、イランにこれを実施するよう求めている。イラン政府は何も提示していない。米政府は、これは不可欠だと主張している。起点がはっきりしなければ、今後イランが不法に核開発を実施しても検証できないからだ。
科学者、計画、兵器化施設への接近を何度も要求してきたが、ケリー国務長官は2週間前、軽やかな口調でこの要求を取り下げた。過去に「とらわれるのでなく」今後の取り組みに焦点を合わせるというのだ。イランの核開発計画を「完全に知ること」がとにかく必要だと言うのだ。省内の職員らにとっては寝耳に水の大うそだ。
心配は要らないと言う。最終合意を交わしてから実施するというが、こんな不合理はない。イランが現行の制裁の下で進めてきた作業を公開することを受け入れていないのに、制裁解除後に合意を順守という保証がどこにあるのか。
制裁解除
これは、国際原子力機関(IAEA)がイランの合意順守を確認しながら、並行して徐々に、段階的に実施される。調印時に最大1500億㌦が前金として支払われる。これは、イラン革命防衛隊の年間予算の25倍に当たる。イランが、イエメン、レバノン、バーレーンなどでの攻勢を強めるには十分な額だ。
しかしオバマ氏は3カ月前、直ちに制裁を解除することは問題視していないという態度を取った。問題はそこではないというのだ。本当に重要なのは、イランの合意違反が見つかった場合の制裁の「再開」だとオバマ氏は語った。
残念だが、イランの違反は見つからないだろう。査察はいいかげんだし、膨大な役所の手続きがある。その上、ロシアと中国が制裁再開を支持するなどあり得ない。さらに、合意後のイランのゴールドラッシュに乗り遅れまいと準備してきた無数の欧州企業が、素直に手を引くだろうか。
非核関連制裁
米政府は、イランの進出、テロに対して科された制裁に核交渉が影響を及ぼすことはないと主張していた。あの時はそうだった。今では、すべて解除されるという情報が政権内から伝わってきている。
これと併せて行われる譲歩の数々も息をのむほどだ。現場検証、過去の核活動の公開、段階的な制裁の解除、非核関連査察の維持、どれも譲ってしまった。
いったい何が残るのか。敗戦国が和平を求めて提示した降伏文書のようだ。考えてみてほしい。地球上で最強の軍事・経済大国が、主要5カ国の支持を受けて、強烈な制裁を科しているにもかかわらず、米国の外交史上最悪の国際合意に調印しようとしている。
どうしてこのようなことになったのだろうか。オバマ、ケリー両氏は譲歩するたびに、真剣に交渉に取り組んでいると言ってきた。
こうして皆の望みがかなう。オバマ氏は「遺産」を、ケリー氏はノーベル賞を、そしてイランは核爆弾を手に入れる。
(7月3日)