現状での中東和平は不可能
地域の安定化が不可欠
イスラエル選挙で保守勝利
【ワシントン】ネタニヤフ首相の選挙での大勝利への反応はばかげたものが多いが、その中で最もよくあるのは、ネタニヤフ氏が、自身がイスラエルの首相である間はパレスチナ国家は認めないと宣言したことを理由に、和平の可能性はなくなったという主張だ。
この人々に知っておいてほしいことがある。イツハク・ヘルツォグ氏が首相になっても、平和にはならないし、パレスチナ国家もできない。エフード・バラク氏でも、エフード・オルメルト氏でもこの点では同じだ。この2人はリクード党員ではなく、首相経験者だ。エルサレムを首都とするパレスチナ人自身の国家を提示し、入植地すべてを新生パレスチナから撤去することを申し出たが、すぐに拒否された。
大昔の話ではない。2000年、01年、08年のことだ。過去15年内に驚くほどの譲歩案が提示されたが、すべて拒否された。
基本的な現実は変わっていない。ヤセル・アラファト氏からマフムード・アッバス氏まで、この世代のパレスチナ指導者らは、ユダヤ国家と土地を分け合う最終和平合意に署名することはなかった、これからも署名することはない。そのためイスラエル政府も、どのような政権であれパレスチナ国家を受け入れることはない。
だが、現在、和平合意が達成できないもう一つの理由がある。中東全体が非常に不安定であることだ。中東は半世紀にわたって、独裁者に支配されてきた。嫌われてはいたが、取引の相手でもあった。例えば、1974年のイスラエル・シリア兵力引き離し合意は、40年以上にわたる国境のほぼ完全に近い平穏をもたらした。アサド独裁政権が交わした合意だからだ。
この全体主義体制下の秩序はもう過去のものだ。シリアは、幾つもの勢力間の内戦でがたがたになり、2万人が死亡した。
エジプトはこの4年間で2度の革命を経験し、三つの性格が大きく異なる政権が現れた。親米のイエメンはあっという間にイランの手先となり、米国は慌てて大使館職員らを退去させた。カダフィによる狂気の全体主義支配下にあったリビアは、聖戦主義者らが支配する内戦に陥った。「アラブの春」が比較的うまくいっていたチュニジアは18日、大規模なテロ攻撃を受け、首相は「国家の安定を標的とした」テロだと主張した。
マリからイラクまで、すべてが流動的だ。このような混乱の中で、ファタハとハマスが激しく対立するヨルダン川西岸だけに安定をもたらすことができれば、それは奇跡だ。現状では、イスラエルとパレスチナ間の継続的な和平合意などあり得ない。
カダフィがリビアを支配したように、かつて、アラファトがパレスチナの政治運動を指揮した時があった。だが、アッバス・パレスチナ自治政府議長は何も指揮していない。4年の任期であるにもかかわらず11年間も今の地位にいる。この5年間、選挙の実施を拒否してきた。ハマスに負けるのが怖いからだ。
選挙が実施されなくとも、西岸が一夜でハマスの手に落ちる可能性がある。そうなればすぐに、テルアビブ、ベングリオン空港、イスラエルの全都市部が攻撃を受けるようになる。ハマスは今でも好きな時に、ガザ地区からイスラエル南部を攻撃している。
アラブとイスラエルが和平合意を交わすには、合意と保障の代わりに、イスラエルが西岸をめぐる危険で、不可逆な領土的譲歩をする必要がある。こんなものは、現状では絵に描いた餅だ。
イスラエルは、シナイ半島の聖戦主義テロリスト、ガザのハマス、レバノンのヒズボラ、シリアの「イスラム国」とイランの手先、友好的だが非常にもろいヨルダンに囲まれている。これらのどの組織が、どこを支配するようになるかは、イスラエルの人々が決めることではない。
批評家らは、イスラエルは外部から保障を得ることができると言う。保障というのは、1994年のブダペスト覚書のようなものだろうか。米、英、ロシアが、ウクライナの「領土的一体性」を保障したものだ。シリアのレッドラインのようなものだろうか。イランのすべてのウラン濃縮を違法と全会一致で宣言した国連決議のようなものだろうか。この合意は事実上、無効となっている。
平和を実現するには三つのことが必要だ。パレスチナがユダヤ国家を受け入れること。それを前提とした合意にパレスチナの指導者らが署名すること。中東地域がもう少し安定化すること。地域が安定すれば、合意を交わし、イスラエルにとって致命的となる可能性をはらんでいる占領地からの撤退を実施することが可能となる。
そのような日が来ると信じている。だが、すぐにそうなる可能性はゼロだ。ネタニヤフ氏が19日にパレスチナ国家は認めないという発言について説明した際に言いたかったのはこのことだ。
オバマ政権と、政府に従順なメディアが、世界中のどの指導者よりも嫌っている外国の指導者が選挙で大勝したことに失望していることは理解できる。選挙結果に腹の虫が治まらないのも分かる。だが、ネタニヤフ氏を平和のチャンスをつぶしたと非難するのは愚かなことだ。
(3月19日)






