原油下落は米国にとって好機

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

社会保障税の削減を

環境にもいいガソリン増税

 【ワシントン】私は32年間、原油への課税の強化を主張してきた。今回も望みはほとんどないがドン・キホーテのごとく、やりで巨人に挑んでみたい。

 ガソリン税増税の提唱を検討できるのは、原油価格が安値で安定しているときしかない。6年前にガソリン増税を提唱した時は、原油は1バレル40㌦だった。110㌦まで再び高騰し、現在は48㌦ほどだ。それとともにガソリン価格はこの3カ月間に1㌦以上下落し、現在は1ガロン(約3・7㍑)約2・20㌦だ。

 その結果、議会では、インフラ整備のために連邦税を10~20㌣ほど引き上げるべきだという主張も聞かれるようになった。考え方は正しいが、政策としては間違っている。上げ幅は10㌣ではなく、1㌦であるべきだ。そこから得た資金は政府が使うべきではないし、政府に委ねるべきでもない。社会保障税を削減することですべて、直ちに消費者に還元すべきだ。

 平均的米国人は週に約12ガロンのガソリンを購入する。従って、増税すれば連邦政府の税収は12㌦増えることになる。そのため増税と同時に政府は、連邦保険拠出法(FICA)による税金を1週間当たり12㌦削減すべきだ。これで平均的なドライバーが損をすることはない。FICA税が週に12㌦減り、その分はガソリンなど好きなものに使える。走行距離を減らせば、その分は自分のポケットに入る。失業者なら、失業保険が12㌦増え、高齢者なら社会保障給付金が増える。

 1㌦のガソリン税増税のポイントは、年間3兆㌦を荒稼ぎする政府を喜ばせることではない。目指すのはただ、意欲を変えることにある。社会保障税という仕事への意欲をそぐものを減らし、ガソリン消費への意欲をそぐことにある。

 これでウィン・ウィンだ。雇用に対する課税は、雇用の創出を阻害する。それを減らせば、成長を促進するだけでなく、格差の是正にもつながる。FICA税には逆進性があり、富裕層よりも、中流層、労働者階級への影響が大きい。

 原油に関しては、米国は依然として、世界最大の消費国だ。世界で産出される原油の20%以上を消費している。これは、世界第2の消費国である中国のほぼ2倍に当たる。

 ガソリン税が1㌦引き上げられれば、二つの点で原油の消費を抑制することになる。短期的には、車の使用が減り、長期的には、車の買い方が変わるからだ。ガソリン価格が下がるたびに、ガソリン食いのランドヨットが戻ってくる。ガソリン税が上がれば、燃費のいい車の需要が増える。消費が縮小すると、生産の急増に歯止めがかかり、原油価格を押し下げる大きな力になる。

 税金は、燃費を改善する最善の方法だ。現在は、自動車メーカーに課せられる「企業平均燃費(CAFE)」という厳格な規制を通じて行われている。この恣意的で官僚的な「十把ひとからげの」平均燃費規制のせいで、大量の車が売れなくなっている。

 これはばかげている。ガソリン価格を高く設定しさえすれば、原油価格が上がった時のように、自然に燃費のいい車を選ぶようになる。高い原油価格よりも税金がいいのは、やはり燃費改善への意欲が高まることにあるが、集められた追加の税金は、そのまま米国経済に注がれ、ロシア、ベネズエラ、イランなど腐敗国家に送られることはない。税収中立のFICA割り戻しで米市民に渡ることになる。

 これは地政学的政変ともいうべきものだ。原油価格下落は、原油に依存するならず者らの力を奪うには最も効果的で効率のいい方法だ。

 そればかりか、燃費が向上すれば大気汚染は改善し、温室効果ガスも減る。長く続いた汚染源が減ることは、わずかであっても、いいことであることは間違いない。地球温暖化に否定的な人々にとっても、このような安全な方法で二酸化炭素排出を確実に削減できるのならば、歓迎しない理由はない。

 想定外で、予想もしていなかった原油価格の急落が、米国にとってこの幸運を守り続けるまたとない機会となる。簡単で、税収中立な方法で、原油価格急落に浮かれた後に必ず訪れる原油価格の高騰を防ぐことができるなど願ってもないことだ。

 1980年代以降、少なくとも3回チャンスがあったが、これらすべてを逃してきた。フランスのジャン・フランソワポンセ元外相は四半世紀前に言った。「1ガロン50㌣のガソリン税引き上げで手直しすることができるなら、国家が大きな問題を抱えていると真剣に考えることは難しい」。今なら、これは90㌣に相当する。今度はこのチャンスを逃さないようにしたい。

(1月9日)