一方的なキューバとの正常化

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト  チャールズ・クラウトハマー

国内の体制変革は困難

国交は米国の利益にならず

 【ワシントン】冷戦に関する古いジョークがある。パンティーストッキングができる前の時代の話だ。共産主義者に勝つには、爆撃機B52の核爆弾を下ろし、代わりにソ連にナイロンを投下すればいい。ロシアの人々を資本主義の柔らかな消費文化に触れさせ、西側と接触、交流させ、愛情で自由へといざなう。

 西側はこれとは違う方法で冷戦に勝利した。ソ連を封じ込め、抑圧し、締め上げ、ようやく敗北へと追い込むことができた。後にソ連内の反体制派は、西側からの支援と抑圧者らへの強力な圧力に支えられたと語っている。

 オバマ大統領のキューバとの国交正常化の背景にあるのは、一つ挙げるとすれば、このナイロン戦略だろう。50年にわたって封じ込めを行い、民主化することはできなかった。だから今度は、米国の製品、観光客、文化であふれさせ、接触し、交流しようというのだ。

 おかしな話ではない。しかし、問題点もある。正常化によって、中国でもベトナムでも民主化を促進することはできなかった。キューバに関してもこれは言える。キューバは米国以外の国々と何十年も前から国交を持っている。カナダ、フランス、英国、スペインなどあらゆる国から観光客が訪れ、貿易、投資が行われている。ナイロン爆弾では、キューバは自由化へと1㍉も動かなかった。

 実際には、西側から流入した資金が独裁政権の維持を助けたといえる。この国では、金融取引のほとんどすべては、政府を通じて行われる。政府が必要な分だけ取り、残りの一部だけが、支配下の大衆に届く。

 警察国家によるキューバ国民の支配は生活のあらゆる部分にまで及び、制度化されているため、対立的であろうと、協力的であろうと、外からの力でこの国の軌道を変えるのは難しいと私は考えている。

 ならば禁輸を解除すればいいと思うだろう。ソ連と米国による世界的な戦いの中、米国の沿岸からわずか150㌔にあるキューバは、敵勢力の重大な拠点と見なされてきた。だが、キューバを孤立させるための確かな戦略的根拠は、ソ連帝国の崩壊とともに消え去った。

 しかしこの数年で状況の一部が変わった。プーチン大統領がロシアを米国の主要な地政学的敵対国として再度位置付け、カストロ一家と同盟関係を結んだからだ。報道によると、キューバは、ソ連時代のルルデスの傍聴施設の再開に合意した。通信を傍受するための大規模な拠点となる。キューバ、ロシア両国政府は、ロシアの核搭載可能な長距離爆撃機がキューバの飛行場を使用することについても協議した。、

 西側世界に対しいたずらの絶えないキューバだが、それに加えて、ベネズエラで国民を弾圧している治安機関に訓練を施し、装備を供給している。

 もちろん致命的な脅威ではない。キューバと永久に断絶せよという十分な根拠もない。しかし、問題はある。米国が現在キューバに科している禁輸措置をカストロ一家は解除してほしいと強く望んでいるとはいえ、何の見返りもなく、貿易、投資、外貨、名誉、世界的な正当性を与える必要があるのか。

 オバマ氏は、民主化に関して何もしていない。これは、キューバの弱体化した人権活動家らに対する裏切りだ。言論の自由はなく、集会の自由も、独立した政党もない。自由選挙の気配など全くない。ソ連から緊張緩和の一環として獲得した1975年ヘルシンキ最終文書では、人権を体制化し、検証することは約束されていなかった。しかし、これが東欧の反体制運動への支援の重大なてことなり、最終的に共産主義の支配は崩壊した。

 オバマ氏がこれまでの蓄積を手放すと言うのなら、少なくとも段階的に進めるべきだろう。例えば、インターネットアクセスを認める代わりに、禁輸の一部を解除するとかだ。そうして、国交正常化と、警察国家の抑圧の緩和を関連付けることができる。

 オバマ氏の支持者らは、そんなものはまやかしだと言うだろう。人権擁護という見返りを得ずに中国とは国交を正常化したではないかというわけだ。

 確かにそうだが、そもそもそんなことは期待されていなかった。目的はすべて地政学上のものであり、その成果は計り知れないものだった。つまり、反ソ連陣営にとって冷戦全体の大規模な戦略的再編につながった。共産主義陣営を分裂させ、中国を中立にし、場合によっては中国の支援も得られるようになった。ソ連帝国の解体のための半世紀にわたる戦いを経てようやくここまでこぎつけた。

 オバマ氏がキューバから得られるものは何もない。ベネズエラの秘密警察への支援の停止など、形だけのものでもあればいいのだが、それもない。悪名高い警官殺しのようなキューバに亡命した米国人犯罪者の引き渡しもない。要求すらしていない。

 オバマ氏には、一方通行の合意がウィン・ウィンに見えるようだ。素晴らしい勝利だ。キューバ問題は解決してしまった。大成功だ。

 これは間違いない。こうすれば難しい交渉でも大成功を収めることができるという見本だ。すべて与えればいい。

(1月2日)