世界を欺く米中気候変動合意
米国だけに削減求める
検証可能なシステムが必要
【ワシントン】「歴史的合意」。オバマ大統領と中国の習近平国家主席が最近、北京で交わした気候変動合意はよくこう呼ばれる。この合意で中国は初めて炭素排出量を制限することを約束した。
これが本当の突破口なら、熱烈にこれを支持したい。私も、炭素を削減する実質的な国際合意の必要性をずっと訴えてきたからだ。だが、今も私は、気候変動の理論は「確立済み」であり、地球温暖化の今後の影響は正確に予測でき、だから破滅的なほどの経済的、社会的コストを支払ってでも、排出量を大幅に、直ちに、必要なら無条件に削減しなければならないという、尊大で無知な主張には懐疑的だ。
それでも、1988年に書いたように、大気中への大量の二酸化炭素の排出はいいことではないと思っている。地球の恒常性維持のためのメカニズムに関して十分な知識が得られていないため、この問題への対応は難しい。しかし、可能な時に、可能な場所で二酸化炭素排出を削減するという思慮は必要だ。
ところが、どんなことでもそうだが、気候変動を警告する人々が訴える急激で無条件の削減のように、度を越してしまうと、それは経済的な自殺行為であり、全く意味がない。さらにいくら排出を削減しても、中国、インドなどの開発途上国が大量の二酸化炭素を排出し、その量を増やしている現状では、大気中の二酸化炭素を削減しても意味はない。
中国だけでも、8日から10日に1基の割合で石炭火力発電所を立ち上げている。米国は、ケンタッキー州とウェストバージニア州の全炭鉱を閉鎖できる。アパラチア炭田を完全に閉鎖することは可能だが、現状では中国にとって経済的血液ともいうべき石炭を輸出している。
温室効果ガスを削減するには、世界全体の合意によって、世界全体で進めるしかない。その意味で中国と合意できれば、いい一歩となる。
だが残念なことに、オバマ・習合意はそのような合意ではない。これはペテンであり、ジョナサン・グルーバー氏のような経済学者が言うバランスのようなものだ。合意の柱は、中国が今から16年後に炭素排出量の削減を開始することにある。一方の米国は、25年までに厳しい新目標を達成するために現在の炭素排出量削減率を2倍にしなければならない。それに対して中国はこの期間、炭素排出量を増加させ続け、さらに5年間、それは続く。
これが、1626年にマンハッタンが24㌦で売られて以来の一方的取引だと感じるなら、それは正しい。もっとばかばかしい話がある。ローレンス・バークリー国立研究所が、中国の炭素排出量はいずれにしても、2030年ごろには頭打ちになると指摘しているのだ。都市化、人口増加、重工業生産が減速するとみられているからだ。こちらは削減努力をし、あちらは特に何もしないということだ。
炭素排出のグラフを見ればすぐ分かる。中国の線はほぼ垂直、米国はすでに線の方向が変わり、下降している。オバマ・習合意は米国の「単独主義」にほかならない。米国のグラフはさらに下に向き、中国は何にも邪魔されず上向く一方だ。
合意の支持者は、こう指摘するだろう。中国は30年までに非炭素エネルギー源からのエネルギーの割合を20%にすると約束した。しかし、中国はすでに、大量の化石燃料の消費を、原発など他のエネルギー源に変える計画を立てている。その理由は、中国の都市部が、二酸化硫黄、窒素酸化物、水銀化合物、微粒子など以前からあった大気汚染源で窒息しかけているからだ。
健康被害は深刻だ。原因は二酸化炭素ではない。大気への影響がどうであれ、二酸化炭素が大気を汚すことはない。つまり、二酸化炭素とは無関係の、中国がすでに抱えていた問題への対処に対して、オバマ氏は大規模な二酸化炭素削減を約束した。
さらに合意内容以外にプロセスにも問題がある。正確に言えばプロセスがないのだ。合意を維持し、検証するシステムがない。基準値もない。実行のためのメカニズムもない。単なる口約束にすぎない。16年後、中国はこの合意を世界に知らせ、削減を開始するだろうか。
すでに言ったが、中国との実のある合意ならば支持する。米国と並行してバランスよく削減を進め、報告と、独立した検証が行われるものであれば支持する。そのような双方向的な合意を世界に拡大し、インド、ブラジル、インドネシアなどの新興国を参加させる必要がある。これこそが突破口だ。
気候変動の熱烈な支持者らがこれを聞き入れることはないだろう。私はもちろん受け入れる。しかし、オバマ・習合意は受け入れられない。「16年たったらまた来て」ということだ。この合意を支持する人々は、不可逆な変化が今、地球に起きており、すぐに行動しなければならないと必死に警告を発する気候変動終末論者らだ。
世界一の炭素排出国中国は例外となり、16年の猶予を得た。
(11月21日)






