オバマケア推進のために嘘

チャールズ・クラウトハマー

米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

狙いは補助金の維持

MIT教授が動画で暴露

 【ワシントン】ビスマルクが外交電報を改竄(かいざん)し、普仏戦争のきっかけとなった「エムス電報事件」とは厳密には違うが、表面化したばかりの「グルーバー告白」は、世界史に残るこの事件にはないものを持っている。世界に通用するほどの不誠実だ。オバマケア(医療保険改革法)構築の中心人物であるマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョナサン・グルーバー教授は、2013年10月の動画で、医療保険改革法は、議会を通過させるために意図的に分かりにくく、人の目をくらませるように作られたことを認めた。オバマケアを売り込むために数々のうそがつかれていたという批判が、ようやく証明されたということだ。

 「透明性の欠如は、政治的に非常に好都合だ。要するに、有権者がばかだったとか、そういうことだ。だが、通過させるにはどうしても必要だったのも確かだ」とグルーバー氏は語っていた。

 グルーバー氏によると、法案の作成者はまず、議会の提案に関する最終的な予算見積もりを出す無党派の議会予算局(CBO)を操作した。つまり、「この法案は、CBOが医療保険加入義務付けを税金と見なさないように無理に捻(ね)じ曲げて作成された」。それはCBOが税と見なせば、法案は成立しないからだ。大統領自身も公の場で、医療保険に加入しない場合に政府に支払わなければならない罰金は税金ではないと主張した。

 その上、オバマケアができても負担は増えないとうそをついていた。それどころかオバマ氏は、誰もが得をし、平均的な家庭の保険料は、年間で2500㌦少なくなると言った。

 私のような懐疑派は、当たり前のことを指摘した。つまり、誰かが負担しなければ、3000万人の保険未加入者を補助することはできない。これは、グルーバー自身も認めている。つまり、オバマケアは大規模な富の移転であり、これは米国民には隠しておくべきことだということだ。その理由は「この法律によって、健康な人が払い、病気の人が受け取るようになることを明示すれば、議会を通過しなかったはずだ」からだ。

 オバマケアは、必要としている人を支援し、必要としておらず、現状で満足な人はそのままでいい、というのが大前提だったはずだ。だからオバマ氏は、繰り返し言っていた。「今の保険が気に入っているなら、維持していい」。ポリティファクトによるとオバマ氏は31回、こう言った。

 だが、誰もが知っているように、そうはならなかった。数百万人が昨年、保険の解約を迫られ、それがはっきりした。さらに何百万人もの人々が、保険料と免責額の急増に驚いた。つまり、富が再配分されたのだ。

 ABCニュースなどが昨年、報じたように、政府はこれらをすべて知っていた。にもかかわらずホワイトハウスの政治家らは、大統領がうそをついているのではないかと疑う者らを黙らせた。オバマ氏は、ごまかしがあることを2010年2月にすでに知っていた。議会指導者らとの会合で、数百万人が保険を失うことになると認めていたのだ。

 うそをつくことは憲法違反ではない。しかし、自己中心的で不誠実な考え方をもとに医療保険の大規模な連邦化が行われたことを国民が知るのは有益なことだ。

 グルーバー氏によると、さらに悪いことがある。最高裁は先週、政府が、自ら作成した医療保険法に抵触しているという訴えを審議することに合意した。医療保険法には、補助金が「州が設置した保険市場」で加入した保険だけに支払われると明記されている。保険市場を設置したのは13州だけだ。それでも政府は、連邦保険市場で加入した保険に税額控除を適用することで残る37州に利益を提供し、同法に抵触した。

 政府が負ければ、補助金制度は崩壊し、それとともにオバマケアそのものもつぶれる。政府が必死になって、「州が設置した保険市場」は、未熟な案にすぎず、法律の誤植のようなものだと訴えているのはそのためだ。目指しているのは、全市場の全保険を補助することだ。

 グルーバー教授の話に戻る。教授は別のスピーチの動画で、オバマケアが何を目指しているかを説明している。「州が保険市場を設置しないということは、つまり、税控除が受けられないということだ」。この法律のコンセプトは、州民が補助を受けられなくなるから保険市場を設置しなさいと州を誘導することにあるということになる。

 ばかばかしい考えではあるが、これで間違いはないようだ。それがこの医療保険改革法であり、それを目指して作られ、その通りに作られた。それを変えることができるのは議会だけだ。これがすなわち、この制度の提案者が実行したことそのものだ。

 政府はよく「史上最も透明性の高い政府」と言うが、その政府が、社会を変える重大な法律に関してようやく本当のところを明らかにすべき時が来たことは興味深い。もちろん、これは政府が意図したものではなかった。オバマ氏が弁舌さわやかな話しぶりで与えてくれた安心の背後に何があったのかをようやく知ることができた。そこを支配しているのは、一般移民をばかにし、蔑視し、巧妙にあざむく高学歴者の尊大なリベラリズムだった。

(11月14日)