エジプトの顔がない遺跡
地球だより
エジプトの数ある観光名所を訪ねて、心痛く思うことの一つに、見事な彫像にもかからず、顔の部分だけが破壊されている像が多くあることだ。殊に、同国南部最大の観光都市ルクソールのルクソール神殿やカルマナック神殿に並ぶ彫像は余りに痛ましくて見るに堪えない。
誰が、こんなひどいことをしたのだろうかと、自然に疑問がわく。その質問を、エジプト人ガイドらにぶつけると、決まって返ってくる答えは、「良く分からないが、多分、コプト教徒(エジプトのキリスト教徒)や、彫像の王達に敵意を抱くローマの為政者など、歴代の王たちではないか」などと、いかにも関心が無いような口ぶりで答えてくる。
私は「これはイスラム教徒による仕業だな」と感じてきた。彼らは偶像を極端に排斥するからだ。最近のイスラム過激派の蛮行を見聞きするにつれ、その確信は強固なものになりつつある。
アフガニスタンのイスラム過激派組織タリバンが、2001年にバーミヤンの仏像を破壊したのは記憶に新しいが、イラクとシリアにまたがる地域に「イスラム国(IS)」の樹立を宣言したイスラム教スンニ派過激派組織は、イラクやシリアで神殿などを破壊し、ヤジディ教徒の神殿をも破壊した。遺跡から彫刻を切りだして、犯罪集団や古物商に売り飛ばしているという。
イスラム教徒は自分たちが批判されることを恐れて、過去の彫像破壊の責任を明確化したがらないようだが、信頼を得るためにも、真実を追求し、進んで事実を明らかにすべきだろう。
イスラム指導者による死刑の宣告や殺害・テロを恐れ、勇気を持ってイスラム教徒の蛮行を指摘できないのかもしれないのだが。
(S)