責任回避するオバマ大統領

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

政治に不安を抱く国民

繰り返される失敗と不祥事

 【ワシントン】オバマ大統領は動揺している。それもかなり。苛立(いらだ)ち、怒っている。ニューヨーク・タイムズ紙は第1面で、政府のエボラ出血熱への対応で怒り心頭と報じた。

 ニューヨーク・タイムズは大統領に対して思いやりを示したつもりなのだろうが、この姿勢には一つ問題がある。オバマ氏の政府であり、オバマ氏は大統領だ。6年間ずっとそうだ。だがオバマ氏は、政府内で問題があると臨機応変に、ショックを受けた部外者のふりを始める。

 内国歳入庁(IRS)の件で2013年5月、保守系組織だけを狙った活動が明らかになると「言い訳はできない。国民が怒るのも当然だ。私も怒っている。政府機関内でのこのような行いを許すことはできない。それがIRSならなおさらだ」とIRSを強く非難した。

 だが、9カ月もたたずに寛大になり、当時のことに関して「不正などみじんもなかった」とスキャンダルはでっち上げだと主張した。

 オバマケア開始時はどうだっただろうか。「誰よりも苛立っているのはこの私だ。誰よりも怒っているのは私だ」。オバマ氏は、自身の目玉政策の核心部分で問題が起きたことについてこう語った。

 退役軍人局の不祥事のときはどうだっただろう。大統領首席補佐官のデニス・マクドノー氏は「シンセキ長官は昨日、言った。…とても怒っているし、大統領の怒りはもっと大きい」と語った。素晴らしいの一言だ。

 大統領自身が「私の責任ではない」と言ったが、政府は、この問題がずっと前、オバマ政権以前から存在していたことを認めている。つまり、5年半はオバマ氏の責任ということだ。

 大統領が怒りを覚えたり、意識の中になかった不祥事の一つに、ホワイトハウスのシークレットサービスの警備が破られた事件がある。ワシントン・ポスト紙は、ファーストレディーと大統領が「怒り、驚いた」と伝えた。それはそうだろう。しかし、最初のシークレットサービスのスキャンダル「カルタヘナの売春婦」のときは、大統領自身が怒りを表明した。「報道されたこれらの主張が事実であることが確認されたとしたら、当然だが憤慨する」。危険から距離を置こうとしているのが見え見えだ。場合によってはいつか怒るということだ。

 これらの計算ずくの怒りと人ごとのようなふりは、説得力に欠けるし、不愉快だ。米国の制度では、大統領は国家と政府の長だ。オバマ氏は、そのうちの君主の部分を楽しみ、政府を実際に運営することになると、無関心で、無能ですらある。

 つまり、オバマ氏の最も重要な仕事は、政府を管理することであり、そのために相応(ふさわ)しい人材を集めることだ。これが管理というものだ。オバマ氏は、地球上で最大の管理人に立候補するまで、管理というものをしたことがなかった。現状がそれを示している。

 問題をさらに深刻にしているのは、オバマ氏が、政府を代表するだけでなく、社会と経済を動かす主要な力は政府だという壮大な信念を持っていることだ。オバマ氏の大統領としての職務の主要なテーマは、政府は信頼され、偉大なことをすべきだということにある。そのため、社会はその活動の大部分を中央政府に任せる必要が出てくる。経済の6分の1を占める医療保険、二酸化炭素排出規制から無料の避妊までさまざまだ。

 しかし、これは「リバイアサン」が善良であり、有能であることが前提だ。巨大で、顔のない官僚機構が無能で、無力で、どうしようもないほどに役立たずで、腐敗している可能性もあるということが明らかになると、オバマ氏は、怒りと驚きを表明するという手段に訴える。

 そうするしかないのだ。自身の政治的財産を守ろうとしているだけではない。繰り返される失敗を衝撃的な異常事態と表現することで、福祉国家の実現という自身の主義を守ろうとしているのだ。

 残念なことに、このような計算ずくの言い訳は逆効果だ。安心ではなく、不安を招来している。オバマ氏の無関心は、誰も責任を持っていない、誰も指導していないという印象を与えるだけだ。

 2週間前の世論調査では、有権者の64%が「米国の現状は統制が取れていない」と考えていた。方向が間違っているなどというものではない。現状に対して否定的な感情を抱いている。政治は失敗し、根本から変えるべきだと感じていることの表れだ。だが、統制を取り戻すことはかなり難しい。

 政府内がこんな状態にあり、秩序が失われ国民は不安な思いを持っている。この夏の国境での危機、ファーガソンでの混乱、「イスラム国」の台頭、エボラ出血熱など不安要因は多い。国民は政府に奇跡を求めてはいない。求めているのは能力のある政府だ。最低限、存在しているだけでもいい。困惑した様子で人ごとのように傍観する大統領は、不安を増すだけだ。

(10月24日)