米国への勝利確信するIS
斬首はプロパガンダ
影が薄くなるアルカイダ
【ワシントン】「イスラム国(IS)」は何を考えているのか。確かに、現代メディアの使い方は心得ている。しかし、米国人2人、さらに英国人1人を斬首する動画を世界に向けて公開したのはなぜなのか。世間を騒がせ、怒らせるためであることは確かだ。
二つの理由が考えられる。一つは、これらのテロリストが、考えられているほど純粋でも、経験豊かでもないという見方だ。血に飢えたテロリストらは、残虐行為を世界に見せたいという欲望に負け、勝ち誇るかのように米国人を殺害すれば、世論が大きく変わり、米空軍の怒りが降ってくることを予測できなかった。
もう一つは、斬首を公開することがどのような結果を生むかはっきりと認識し、あえてそうしたという見方だ。米国を挑発して、メソポタミア戦争に引きずり込む簡単なばね仕掛けのわなだ。
なぜなのか。
米国が敗北すると確信しているからだ。すぐにでもなく、軍事的にでもない。戦闘では米国が勝つことを知っている。しかし、戦争が長引けば、米国は士気を失い、去っていくと確信しているのだ。
オバマ政権は、2011年にイラクとリビアを去り、アフガニスタンからも撤収を進めている。同じようにイラクとシリアでの活動もいずれやめると、テロリストらは考えている。9・11後繰り返されてきたパターンをよく見ている。米国人は衝撃を受けると、怒り、行動を求めるが、短時間で解決できないと、飽きてきて、撤退を命じる指導者を求めるようになるということをよく知っているのだ。オバマ氏は、このタイプの典型的な指導者だとみられている。
イスラム国は、短期的には空爆を受けることを分かっている。しかし、その価値はあるとみている。公開処刑によるプロパガンダは成功し、威信も築くことができた。その名が知られ、戦士らが集まっている。
こちら側の考え方を修正する必要がある。アブグレイブ、グアンタナモでの「拷問」が示す米国の残虐性、イラク戦争そのものも聖戦主義者らを集める格好の手段になっていると常識的には考えられている。しかし、イラクを去り、アブグレイブ刑務所を閉鎖し、「強度の尋問」を禁止しても、戦士らは集まり続けた。オバマ氏は就任後、寛大な態度を取ったが、実際には、マリからモスルにかけて聖戦組織は大きくなるばかりだ。
残忍な行動は、イスラム国の最も効果的な人集めの手段であることがはっきりした。よく練られた、大胆な計画だ。斬首は、世界中のサイコパスらを引き寄せているだけではない。強い決意と、米国の無力さを意識的に演出しようとしている。ウサマ・ビンラディンの有名な言葉「強い馬」は誰かの最新版だ。
これまでのイスラム国の活動を見ると、主要な戦闘の場は内側にとどまっている。パキスタンのアルカイダやシリアのヌスラ戦線など聖戦のライバルを乗り越え、取って代わろうとしている。真の聖戦の英雄となろうとしている。
戦略は簡単だ。超大国、米国を引きずり込んで、引き立て役に仕立て、同時に米国の宿敵としてイスラム過激勢力の中で最高の地位を獲得しようという計画だ。
これは成功した。1年前、世界はこの組織について何も知らなかった。当時の名称は「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」だった。今では、大統領の演説のテーマになり、議会で審議され、国際会議まで行われている。ジョイントベンチャーに成り下がってしまったアルカイダに代わる新アルカイダだ。
お株を奪われ、影が薄くなったアルカイダのリーダー、アイマン・ザワヒリは慌てて、インド・南アジア支部の新設を発表した。今月に入って設置が発表されたこの支部は、さっそく最初の作戦を実行し、パキスタン軍のフリゲート艦を攻撃するが見事に失敗し、10人の戦士が死亡、船は無傷だった。
アルカイダが面目を失っている一方で、パリでイスラム国に関する大規模な国際会議が開催された。ケリー米国務長官が呼びかけたものだが、他の会議と同様、失敗し、オバマ氏の「広範な連合」構想は宙に浮いたままだ。
これはどちらかというと「無志」連合だ。トルコは、空軍機の使用を拒否した。スンニ・アラブ諸国は、軍事的に重要なことは何もしようとしない。戦闘要員を出そうという国は皆無だ。だが、これも驚くようなことではない。オバマ氏自身が繰り返し言っているように、米国自身に戦闘要員を出す気がないからだ。
ケリー氏は17日の上院での証言で、イスラム国を「打倒しなければならない。以上。それだけだ」と言った。あまりよく練られた言い方とは思えない。はっきり言い切るあたりは、医療保険改革をめぐるオバマ氏の約束を思わせ、ぶざまだ。「しなければならない」という部分も、アサド・シリア大統領は退陣しなければならないと言ったオバマ氏の言葉を思わせる。
しかし、ケリー氏の言葉は、戦略という点でも、モラルという点からも真実だ。だが、敵は意図的に戦闘に引きずり込もうとしており、ケリー氏は大失敗をしたことを世界にまず示すことくらいはすべきではないだろうか。
(9月19日)






