税制改革進めないオバマ氏
高い法人税率嫌う企業
進む国外への本社移転
【ワシントン】オバマ政権は「インバージョン」への取り組みに意欲的だ。米企業が外国企業を買収、本社を米国外に移転して、国外の低い税率の恩恵を受ける、これがインバージョンだ。
オバマ氏はフェアでないと言う。「反愛国的で、税制の抜け穴」を突いたインバージョンで失われた分は、汗を流して働く米国民が補うことになると言う。
なるほどとは思うのだが、民主党はこれまで、愛国心がないと他者を批判することには強く反発してきた。今回は、どういう風の吹き回しか、愛国心がないと批判することに熱心だ。その標的は、先進国の中で最も高い法人税を支払うという愛国的行為を拒否する企業だ。
民主党がいつも、企業に人格を持たせるという考え方をばかにしてきたことを考えると、さらに奇妙だ。ホビー・ロビー裁判では、企業は宗教的信念を持ち得るという考え方を拒否した。ところが今は、企業は愛国主義的良心を持つべきだと主張している。どうなっているのか。
さらに企業は、株主の利益を保護するという受託者責任を持つ。ウォルグリーンズ社が、政府の圧力に屈して、本社をスイスに移転させる計画を破棄したことが、この受託者責任の放棄に当たることは間違いない。インバージョンを実施していれば、数十億㌦が節約できたからだ。計画破棄でウォルグリーンズの株価はすぐに14%下落した。
しかし、民主党の問題はもっと根深い。インバージョンの原因は誰もが知っている。米国の法人税率35%が飛び抜けて高いからだ。企業は、合法的に納税額を下げるという、企業として普通のことをしているだけだ。
腹立たしいのは、この問題が簡単に解決できることだ。税制改革を行って、憎まれ者の法人税率を下げることだ。民主、共和両党はこの点で一致している。バーガーキングがティム・ホートンズを買収し、カナダに本社を移転することが最近発表されたが、これを受けてオバマ大統領は自ら声明を発表し、法人税改革を行って税率を下げ、税の抜け道をふさぐことが、インバージョン問題の最良の解決法であることを認めた。
これは政治的にも可能だ。税制改革に関して各党独自の主張がある。保守派が改革を支持するのは、税率を下げることで経済は刺激を受け、抜け道がふさがれて、税金がもとで大量の資本が不適切に配分されることを減らすことができるからだ。
一方のリベラル派は、改革で経済的公正が実現できると考える。税制改革で抜け道がふさがれれば平等が得られる。力のある企業は、高額の報酬を払ってロビイストを雇い、抜け道を作り、高い弁護士を雇ってその抜け道を巧妙に利用することができる。法人税の表面税率が35%であるのに、一部大企業の実効税率が約13%であるのはそのためだ。
税制改革で解決できることが分かっているのに、なぜ取り組まないのか。時間がないとオバマ氏は言った。待ったなしだ。そこでオバマ氏が求めたことは、インバージョンの非合法化だ。
時間がないというのはどういうことか。これまで何をしていたのだろうか。6年間、税制改革は何もなされていない。しかも、6年間のうち2年間は民主党が議会の両院を支配していた。今になって時間がないといって、本来あるべき解決方法を回避し、懲罰的な反インバージョン法を短時間で成立させて、懲罰的といっていいほどの既存の法人税の影響を打ち消そうとしている。
ばかげた話だが、今話題のインバージョン「キングバーガーがカナダへ」合意の出資者が、オバマ氏お気に入りの富豪、ウォーレン・バフェット氏だけである点は興味深い。
バフェット氏は、金持ちはもっと税金を払うべきだと主張し、オバマ大統領にとって英雄となった。オバマ氏は2012年、経済的公正のチャンピオンとしてバフェット氏を何度も持ち上げた。12年の階級闘争の同志が、オバマ氏を裏切りインバージョンを支援している。
ベネディクト・アーノルズ将軍のような変節者が毎週のように生まれている。インバージョンが最近になって増加した理由の一つは、オバマ政権がインバージョンを非合法化する前に移転しようとしているからだ。
ウォールストリート・ジャーナル紙によると、バフェット氏の友人は、税金だけが動機ならば、同氏はバーガーキングの買収を支持しなかっただろうと話している。確かに考えられる要因はほかにもある。検討されている反インバージョン案の中に、節税を理由に行われる買収だけを非合法化すればいいというばかげたものが出てくるのはそのためだ。どのようにして買収の理由を証明するのか。うそ発見器でも使おうというのだろうか。
真の政治指導者なら、このような些末(さまつ)なことにとらわれることなく、しっかりした税収中立案を議会に提示して、法人税改革を進めるだろう。20年にわたる経済成長につながった1986年の超党派の歴史的税制改革のようなものが出てくる可能性はある。
だがそれには、それができる大統領が必要だ。、






