指導力発揮しないオバマ氏
抵抗続ける親露派
国際世論を無視するロシア
【ワシントン】オバマ大統領の行動に懸念を抱いている人は多い。メキシコ国境の移民危機からメソポタミアの「イスラム国」まで、オバマ氏の態度はまるで他人(ひと)事のようだ。大統領は、ゴルフざんまい、資金集めや写真撮影の合間に、感情のこもらない、機械的な、言わされてでもいるかのような声明を発表するといった感じだ。
ウクライナに関して話す時の、紋切り型で、気持ちのこもらない声は、ほとんど拒絶といっていい。パワー米国連大使は、ロシアを強く非難した。オバマ氏は「まず事実の確認」が先だと慎重姿勢だ。プーチン大統領を支持する親露派が旅客機を撃墜したかどうかははっきりしないとでも言っているようだ。
オバマ氏のこの態度の原因としてまず考えられるのは、心理的要因だ。くたびれ、諦め、この世界に希望を失い、後ろ向きになっている。
もっともな推測だが、ここでは、大統領の名誉のために別の見方を提示したい。思想からきているという見方だ。オバマ氏は、ウクライナ問題をめぐってプーチン氏が歴史の悪い側に立ったと主張したが、本当にそう思っているのだ。19世紀のように野蛮な方法で国家を征服すれば、いずれ自滅すると考えるオバマ氏は、現実的政治を見下している。歴史がそれを示しているというわけだ。
「道徳の世界の弧は長いが、それは正義の側に向かっている」。これはオバマ氏が好んで使う言葉だ。つまり、不正義と武力による侵略は成功しない。ソ連の20世紀の帝国は崩壊した。近い例でいえば、イラクとアフガニスタンで米国が得たものは、時間とともに失われた。オジマンディアスは砂漠の砂の中に埋もれ、忘れ去られるのだ。
オバマ氏がウクライナ危機の初めに、クリミアからの「出口車線」をプーチン氏のために設けようとしたことを思い出してほしい。浅はかな考えだが、オバマ氏は真剣だったようだ。プーチン氏を救い出せると考え、クリミア問題はいずれロシアに跳ね返ってくると思っていた。
実際にこう考えるなら、力による、危険な対抗策を取る必要はなくなる。これで、嫌がらせ程度の制裁、臆病な欧州を放置し、ウクライナが求めたにもかかわらず武器の供与を拒否したことの説明はすべてつく。
民間機撃墜によって、オバマ氏の消極姿勢が正しいことが証明されたように見える。オバマ氏は「暴力と衝突は必ず、予想外の結果を生む」と指摘した。火遊びをしてたから、目の前で爆発してしまっただろう、だから警告したのに、世界はプーチン氏に背を向けるということだ。
これに対してはこう言いたい。それがどうした。国際世論それ自体はもともと無意味だ。つまり、一貫性がなく、一時的で、指導者がしっかりしなければ無力なのだ。歴史は、自動的には動かない。主体となる人物が必要なのだ。
メルケル独首相はいまだに、ロシアとの貿易を危険にさらしたくないと考えている。フランスのオランド大統領は、ミストラル級強襲揚陸艦のロシアへの納入を進めている。ロシアが意地を張れば、将来、付けを払うことになるとオバマ氏は言うが、全く信用はできない。
オバマ氏は、298人の無辜(むこ)の民間人が死亡したことで、プーチン氏が恥じて、後悔し、自制するようになると思っただろう。実際はその逆だ。プーチン氏は、臆面もなく抵抗している。すべてを否定し、うそと作り話の大規模なキャンペーンを開始し、ウクライナと米国を非難する陰謀論を展開した。
プーチン氏は、国際世論など気にしない。気にしているのは国内の世論だ。クリミア以降、支持率は80%を超えた。勢いづくのは無理もない。親露派は23日、さらに2機のジェット機を撃ち落とした。世界への挑戦状であり、活動は続けるという宣言だ。
真の米大統領なら、ウクライナに武器を提供し、ロシアに対し激しい制裁を科し、中欧ミサイル防衛システムを復活させ、その理由をレーガン張りの演説で説明するだろう。
オバマ氏はどれも実行していない。どうして、これらを実行すべきなのだろうか。オバマ氏は、歴史の善の側にいるからだ。
当然ながら、長くは続かない。しかし、歴史は今、ここで生きている。ソ連はわずか70年、ヒトラーは12年。だが、無数の人々を殺し、欧州全体に破滅をもたらすには十分だった。シリアのアサド大統領も、いつかは退く。しかし、すでに10万人以上の人々を殺害した。
支配はいずれ終わる。だが、どれほどの犠牲が伴うかだ。攻撃を跳ね返し、不正義を埋め合わせるのを歴史の力に任せるのなら、そもそも政治や指導者が存在する意味はあるのか。
世界に火が付き、わが指導者は14番ホールだ。大統領閣下、歴史の弧は確かに正義の側に向いているのかもしれない。しかし、閣下の言うように、弧は長い。指導者の仕事は、それを短くし、現在の切羽詰まった状況を動かすことだ。でなければ、どうして大統領が必要なのか、国民のための大統領になろうとしたのか。






