パリのユダヤ人


地球だより

 フランス人の友人の息子、ピエールがパリ大学のパンテオン校に通っている。ピエールいわく「まったくユダヤ人たちを見ていると頭にくる」と。理由を聞くと「彼らは大学生のくせして高級車を乗り回し、高そうなノートPCを持ち、服装もブランド品だ」という。

 ピエールは経営学を学んでいるが、将来金融界などで活躍したいユダヤ系フランス人の学生が少なくないという。ピエールの家庭も中流以上の家庭で父親は外資系企業の管理職なのだが、ユダヤ系の学生のぜいたくぶりには圧倒されているようだ。

 パリ市は20区から構成されているが、一つの区に少なくとも四つ以上のユダヤ人学校が存在する。18区や20区などの貧困地区にもユダヤ人はいるが、多くは高級住宅地のある16区などに住む富裕層だ。パリ北郊外にはリトル・エルサレムと呼ばれるユダヤ人居住区サルセルがある。最近、そこで暴動が起きた。

 サルセルは、世界のユダヤ社会の事実上の二大勢力の一つである“セファルディムのユダヤ人”の居住区だが、近隣はアラブ系貧困層が住む治安の不安定な地域でもある。イスラエル軍のガザ攻撃に抗議するアラブ系の若者が暴動を起こした。現在、フランスには約60万人のユダヤ人とその10倍の約600万人のアラブ系移民が住んでいる。

 どちらも欧州最大規模なのだが、60万人のユダヤ人の総資産は、600万人のアラブ系移民のものよりはるかに多いとみられている。フランス人のピエールでさえ、いら立つのだからアラブ系移民の人たちのユダヤ人に対する不快感は推して知るべしだろう。

 ユダヤ人には財界だけでなく、高級官僚や政治家もいる。しかし、ヨーロッパではナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺の歴史から、反ユダヤ主義的言動はタブーだ。しかし、今回のイスラエル軍によるガザ攻撃などの場合は話は別だ。既にユダヤ教礼拝所(シナゴーグ)への投石、ユダヤ人が経営する商店への放火などが起きている。

 友人のユダヤ人画商、アブラハムは「パリではユダヤ人とアラブ人の関係はそれほど険悪ではなかったけど、湾岸戦争あたりからギクシャクし始めた」と語る。既にユダヤ人コミュニティーは警察に対して警備強化を求めているようだ。

(M)