一体感と自由の歓喜表現、エストニアのソング・ダンス・フェスティバル

世代と民族を超えて共有

 独立再回復の際に「歌う革命」で有名になったエストニアのソング・ダンス・フェスティバル。5年ごとに開催されるこの国家的祭典がこのほど行われ、約20万の人々が一体感と自由の喜びを共有した。(タリン・行天慎二、写真も)

「触れ合い」取り戻す絶好の機会

800

見事な統一を示すダンス演技

 4日から3日間、エストニアは歌とダンスに酔いしれた。最終日には、タリン郊外の広大なソング・フェスティバル会場に20万人近い人々があふれ、7時間にわたって大合唱とオーケストラ演奏を楽しんだ。児童合唱、少年合唱、男声合唱、女声合唱、混声合唱によって次から次へと歌が披露された後、最後は2万1000人余りの合同合唱団がステージに集い、観客と共に「わが祖国はわが愛なり」「祖国」の有名な2曲を熱烈に歌い上げた。ステージと観客との間では自然発生的に順番に両手を上げて降ろすウエーブが何度も起きて、歓喜が表現された。

800-1

開会のスピーチをするイルべス大統領

 今回のフェスティバルの基本テーマは「タッチ(触れ合い)」。1869年から続くフェスティバルの歴史の流れの中で人々が何に触れ合ったのかを振り返るとともに、人々にとって変わらぬ大切なもの、自由と一体感、コミュニティーなどの価値を確認しながら次の世代へと手渡すメッセージを考えようというわけだ。「時によって触れ合わされる。触れ合う時」のキャッチフレーズがそれを物語っている。

800-2

大合唱をする少年少女たち

 エストニアは欧州連合(EU)に入って以降は自由市場経済、資本主義の波にさらされて急速に人々の生活がおカネに支配されて自己中心的になっている。物質的により豊かな生活を求めるあまり、心の余裕がなくなっている。それだけに5年ごとに開催されるこのフェスティバルは今、家族やコミュニティーの中で人々が触れ合いを取り戻すための貴重な役割を担う。フェスティバルは、祖国の自由と独立を勝ち取った世代にとってだけでなく、デジタル情報化時代の中で巧妙に生きながらも孤立感を味わっている現代の若者たちにとっても掛け替えのないものだ。

800-3

エストニア国旗を振って合唱団を声援する観客

 今年のフェスティバルに最年少の作曲家として参加したペルト・ウースベルク氏(28)は、みんなと一緒になれる一体感の素晴らしさを次のように語っている。「ここ(フェスティバル)での考えはエゴを解体するということだ。われわれは今日、非常に個人主義的な世界に生きている。エストニアもそうだ。フェスティバルに関わることは自分にとって一種の治療だ。普段は他の人と距離感があるが、(フェスティバル期間は)誰に対しても『元気にしてる?』と声を掛け、一緒に歌いながら親密になる。これこそフェスティバルの感覚だ。自分のエゴは重要でない」

 ソング・フェスティバルには合唱団としてロシア系の学校からも約500人の生徒が参加した。これまでフェスティバルはエストニア人だけのものと考えられていたが、今回は観客の中にもロシア系の人々の姿も見られた。一体感の素晴らしさは民族の壁をも超えて共有されようとしている。フェスティバルからの帰途、タリン市内へ歩いて帰る群衆の中からはフェスティバル会場で見られたウエーブが再度繰り返された。一体感と自由の歓喜の名残を惜しんでいるようだった。

 他方、ダンス・フェスティバルも約9200人のカラフルな民族衣装をまとったダンサーたちがライブ演奏に乗って、2時間にわたって27のプログラムの中で躍動感と素晴らしいフォーメーションを見せてくれた。基本的テーマである家族やコミュニティーの価値の重要さがフォークダンスのさまざまな振り付けによって表現されていた。

 エストニアのこのフェスティバルは、ラトビアとリトアニアのフェスティバルと並んで2003年11月にユネスコによって世界無形遺産に指定され、その伝統が民族を超え世代を超えて継承されようとしている。