失敗を繰り返すケリー長官

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

成果が出ない中東和平

パレスチナは一方的独立か

 【ワシントン】これほどまでに多くの交渉を自ら呼び掛け、失敗させた国務長官がかつていただろうか。ケリー長官は、あらゆる助言を無視し、方策もないまま、ジュネーブ会議を開催し、シリア内戦を終結させようとした。アサド大統領を権力から追いやることも考えていただろう。だが、会議は、中傷と混乱を招いただけで失敗した。

 ケリー氏はそれに対してどう対応しただろうか。何と、もう一度ジュネーブ会議を開き、中傷と混乱の中で会議は失敗した。

 ロシアの特殊部隊がクリミアを占拠しようとしている時もケリー氏は、パリからローマ、ロンドンへとロシアのラブロフ外相を追い掛け回し、外交的「出口車線」を提示した。ラブロフ氏はこれを軽くあしらい、ロシアはクリミアを併合した。

 だが、この外交的徒労の中でも際立っているのは、アラブ・イスラエル交渉を、あらゆる可能性、まっとうな助言を拒否して、立て直そうと必死に取り組んでいることだろう。ケリー氏は中東に12回、足を運んだ。9カ月で最終的な中東和平を達成するためだ。

 今はその9カ月目だ。交渉は何も成果を出していない。だが、これは最初からおかしかった。パレスチナ自治政府のアッバス議長が最終的和平を受け入れるわけがないからだ。

 アッバス氏は任期4年の10年目だ。再選されていないが、居座り続けている。議長としての正統性は失われている。パレスチナの半分を占めるガザ地区は、アッバス氏の宿敵であり、対イスラエル強硬派のハマスが支配し、ここにはアッバス氏の権限は及ばない。

 アッバス氏に和平の意思はない。①イスラエルをユダヤ国家として認めること②パレスチナ難民の帰還権の放棄-帰還が実行されれば、イスラエルは何百万人ものパレスチナ人であふれ、人口という面からのユダヤ国家は失われる③対立を永遠に終わらせる合意-を公然と拒否している。

 このうちの一つでも拒否されれば、最終的和平は実現できない。これらすべてが拒否されれば、和平プロセス全体が合理性を失う。ケリー氏は、最終合意を達成する気はない。「枠組み合意」を達成する気もない。瀕死(ひんし)の交渉を生き延びさせようとしているだけだ。

 当然ながら、それには代価が伴う。イスラエルが収監していたテロリストを釈放しても、ただパレスチナを交渉にとどまらせる程度のことでしかない。成果が出ていないことは、パレスチナ自身も認めている。

 アッバス氏は、こんな茶番を早くやめてしまいたいと思っている。そうすれば、国連機関の承認を求めることができる。イスラエルと交渉せず国家樹立を果たすための戦略だが、これは1993年オスロ合意以降に交わされてきた全合意に反する。

 イスラエルは、アッバス氏を交渉に引き留めておくためにテロリストを釈放するよう求められることにうんざりしている。まるで外交的出資金詐欺だ。いつまで続くのだろうか。全テロリストが釈放されるまでだ。その時、アッバス氏は国連に国家承認を求める。どのみちそうなる。

 米国はイスラエルを引き留めるために、イスラエルのスパイ、ジョナサン・ポラードの釈放をちらつかせることを決めた。

 米国は、イスラエルが領土を放棄する際に生じる安全保障上のリスクに備えることを提示し、交渉を促進してきた。アラブ諸国は、安全を保障することはできないし、保障する気もないからだ。そのため米国は、先進兵器や最新情報を提供し、軍事的バランスを再構築しようとするはずだ。

 ポラードは、米国人の裏切り者であり、いずれにせよ来年には保釈される。イスラエルがずっとポラードの釈放をめぐって交渉してきたのは間違いだ。母国を裏切ることは恥ずべきことだ。それに対する見返りとしての釈放要求は間違っている。

 アッバス氏はそんなことは意に介そうともしない。同氏は2日、「パレスチナ国家」として15の国連・国際条約に調印し、事実上、交渉を拒否した。米国の和平プロセスの根幹を揺るがし、国務長官の顔に泥を塗る行為だ。ケリー長官は、何もなかったそぶりをし、仲介を進めるだろうが、無意味だ。

 米政府は、パレスチナ人テロリストとポラードの釈放というカードでアッバス氏の国連での取り組みを中断させようとするよりも、議会との対決をやめるのが一番だ。その方がはるかに効果的だ。法に基づいて、パレスチナを承認した国連機関への資金を停止する。

 オバマ政権は、2011年にパレスチナを承認して米国を怒らせた国連教育科学文化機関(ユネスコ)への資金提供を再開しようとしている。これで世界に対して何を示そうとしているのか。経済制裁は、外交政策を補う圧力としての効果がある。ところがオバマ政権は、パレスチナの一方的独立の阻止に役立った可能性のある制裁を解除しようとしている。一方的独立は、パレスチナの最新の戦略であり、平和を提供することなく土地を手に入れるためのものだ。

 実行すれば、力ずくの外交ということになるが、それではまるで19世紀の外交だ。

(4月4日)