アイフォン手に牛車
地球だより
東南アジア最後のフロンティアとされるミャンマーが急速な近代化の波にさらされている。一時、中古車輸入の減税措置を取ったことでマイカーが一気に増え、今やヤンゴンは世界最悪とされるバンコクの交通渋滞にも似たような状況となっている。
かつて緑あふれる「庭園都市」といいながら、実は未開発だけでしかなかったヤンゴンにはショッピングモールやハイテクオフィスビルも林立するようになった。
それでも、少し田舎に行くと、懐かしい光景も目にする。商都マンダレーでは一乗り10円から30円のトラック改造型ミニバスが運行している中、馬車が庶民の足としてまだ健在だ。カンボジアのアンコールワットやインドネシアのボルブドールと並ぶ世界3大仏教遺跡の一つパガンでは、1000近い仏塔の中を旅情豊かに運ぶ馬車タクシーが観光客の楽しみの一つになっているが、ビジネス社会に参入しながら、なお馬車が走っていることに戦後半世紀以上、変わることのなかったミャンマー社会の歴史の断面を見る思いがする。そのマンダレーからさらに奥地のミッチーナに列車で向かった。
車窓から眺める田園風景は、地理的移動だけでなく、タイムトンネルをくぐったような光景が続く。それでも牛車に稲を山のように積みながら家路に就いている農夫が右手に鞭(むち)、左手にアイフォンを持っていた。
(T)