ロシアの撤退を夢見る米国
対露制裁で弱気な欧州
オバマ氏見下すプーチン氏
【ワシントン】ウクライナ危機が始まったころ欧州各国は、ウクライナを欧州連合(EU)体制に取り込もうとし、ロシアのプーチン大統領は威嚇と賄賂でこれに対抗していた。英国のあるアナリストは、「バゲットでナイフに立ち向かった」と嘆いた。
これは3カ月前のことだ。バゲットではナイフには勝てない。ウクライナの首相が先週、ワシントンを訪問し、緊急軍事支援を求めた。国防総省は拒否し、代わりに軍用食を提供した。
プーチン氏は、ウクライナ国境に数千人の兵士、野砲、戦闘ヘリを動員し、米政府はこれにバゲットで対抗した。これが米国流だ。この不確かな情勢の中で確かに言えることが一つある。米国はウクライナ侵攻のお膳立てをすることになる。
なぜウクライナへの武器供与を拒否するのか。オバマ、ケリー両氏の世界観では、犠牲者を武装させることは挑発と取られる可能性があるからだ。このような考えられないような不合理が、クリミア問題全体への米国の対応の特徴だ。
オバマ氏はなぜ最終的に、プーチン氏のクリミアへの侵入、占領、掌握への対応を遅らせたのか。プーチン氏に沈静化への退路を提供するためだ。ホワイトハウスはこれを「出口車線」と呼ぶ。
出口車線とはどういうことだろう。プーチン氏はいずれ敗北し、クリミア侵攻が大惨事を招いて名誉の撤退をすることになるということだ。クリミアを掌握し、ウクライナ東部を脅かし、ウクライナ政府を不安定にし、北大西洋条約機構(NATO)を動揺させ、東欧の米国の同盟国を恐れさせ、西側は無力だと思わせたプーチン氏がいずれ敗北すると考えることは、妄想でしかない。プーチン氏も同じような考えを持ち、米国が外交を通じて歴史に残るような大失敗から自身を救い出してくれると考えているとしたら、現実離れもいいところだ。
オバマ氏のロシアへの「リセット」外交、ミサイル防衛網の放棄、シリアでの失敗を受けてプーチン氏は、米国の大統領を露骨に見下した。それどころか、米国がこれほどまでの幻想を抱いていることに驚いてさえいた。プーチン氏は、200年の歴史のある国家資産をほとんど発砲することなく取り戻し、国内では大喝采を浴びた。プーチン氏の支持率72%はオバマ氏よりも30ポイントも高い。それでも米国の指導者らは、プーチン氏は救出を求めると思っている。
プーチン氏は、「国際社会」からよく見られることよりも、セバストポリを手に入れる方がいいと明言した。しかし、オバマ、ケリー両氏はクリミアの住民投票までずっと何もせず、選挙が実施されると、「結果を伴う」と不気味な脅しをかけた。オバマ氏は、不動産広告の法的通告文でも読むかのように、抑揚のない調子で4分間の声明を発表し、この結果について明らかにした。その結果とは、ビザ停止、11人の資産凍結だった。11人のうちロシア人は7人だ。
1億4000万人のロシア人のうちの7人だ。プーチン氏も、メドベージェフ首相も、オリガルヒ(新興財閥)も、元KGBのプーチン氏の取り巻きも、誰も含まれていない。ロシアの産業と金融の生命線であるエネルギー部門や銀行も対象になっていない。
これに対しては、制裁の対象となったロシア人自身からも遠慮のない嘲笑が送られた。オバマ氏の声明は誰かがいたずらで書いたものではないかという者さえいた。ロシア議会はクリミア掌握を支持し、353人全員がロシア編入に賛成票を投じた。金融市場は大きな変化を嫌い、継続を求めるものだが、クリミア編入にまったく動じなかった。
欧州はもっと弱気だ。米国よりも低位のロシアの役人に制裁を科した。皮肉なことに、20年にわたって西側は、ロシアを世界の経済システムに統合することに励み、オバマ氏は世界貿易機関(WTO)へのロシア加盟を強く後押しした。ロシアはこうした世界とのつながりを失うことを恐れ、行動を慎むだろうと考えた。
だが実際に行動を慎んだのは欧州の方だった。欧州は、貿易や、ロシアからの天然ガス輸入に大きな影響を及ぼす措置を講じることができない。
米国はどんな言い訳をするのだろうか。ロシアのガスは輸入していないし、貿易額は微々たるものだ。それでもわが大統領は、奇妙なくらいにやる気がない。冷戦後の欧州の秩序が堂々と踏みにじられているのに、オバマ氏の姿はどこにも見当たらない。
以前にも指摘したことだが、できることはある。国防長官を明日にでもウクライナに派遣して軍事支援について協議し、ポーランドとチェコとのミサイル防衛協定を復活させ、液化天然ガスの大規模輸出に関する方針を発表すべきだ。先頭に立って欧州を引っ張り、ロシアの企業を西側の金融システムから切り離す制裁を科すべきだ。
すでに指摘されているように、プーチン氏は、クリミアだけでなく、ウクライナ東部も奪取するかどうかを考えている。わが大統領も真剣であることを示すべきだ。
(3月21日)