オバマケアが雇用に悪影響
損なわれる労働意欲
保守派は5年前から警告
【ワシントン】医療保険改革法(オバマケア)をめぐってごたごたが続いている。民主党は、大統領の恣意的な判断で修正される同法を「国法」と呼ぶがおかしな話だ。そんな中、同法が雇用にどのような影響を及ぼしているかが分かってきた。
まず、議会予算局(CBO)が、オバマケアの保険補助金によって生じた労働意欲の低減によって発生する雇用減少の予想を3倍にした。2017年までに200万、21年までに230万だ。
民主党は臆面もなく、これはいいことだと言う。自発的に放棄される雇用だからというのがその理由だ。ペロシ下院民主党院内総務は、オバマケアの補助金によってどのようにして、つまらない仕事を離れ、好きな仕事に就くことができるようになるかを叙情的に説明した。「医療保険を維持するためのアルバイトに煩わされることなく、人々が芸術家、写真家、作家になれる社会を想像してみてほしい」
仕事に関してこれほど叙情的に表現したのは、マルクスが著書「ドイツ・イデオロギー」で、共産主義社会について「朝に狩りをし、午後に釣りをし、夕には家畜の面倒を見、夕食後、批判する」と指摘して以来だろう。
だがペロシ氏の表現には、叙情的でない所が1カ所ある。退屈な単純労働に精を出さざるを得ない工場労働者の税金が、理想を求めて自発的に職を辞した芸術家らへの補助金に使われるという点だ。これは、労働者の人権の擁護者を気取る民主党の立場と矛盾しないだろうか。
補助金好きなリベラリストにとっては逆説的だが、ジェイ・カーニー大統領報道官も同様に、このオバマケアによって派生する雇用喪失を強く支持した。その理由は、オバマケアによって、「どのように働くのか、働くかどうかを家族が決める」「機会」を創出したからだ。
働くかどうか、だ。オバマ政権以前にも、チョウの研究に没頭するために仕事を辞める権利は誰にでもあった。米国は自由な国だ。新しいリベラルな制度の下では、このチョウ研究家は、実際に労働をする人々の税金から補助金を受けることになる。
これまでの働く機会が与えられた社会で政府は、尊厳をもって仕事をし、向上心を持ち、社会的地位を築くための道具、つまり教育、訓練、さまざまな奨励策を提供した。新しい機会の社会では、怠けていても、ほかの人に寄生して生きる機会が与えられる。どうして、このほかの人々は仕事を続けなければならないのか、カーニー氏は説明していない。私だってできるものならダンスがしたい。
リベラル派はCBO報告に対し、仕事への意欲の低減は、家計調査が必要な補助金すべてに言えることだと率直に主張した。1㌦稼ぐごとに補助金の一部を失い、名目賃金はますます減っていくのだから、困っている人々を助けるのはやむを得ないというわけだ。
確かに避けて通れない。だがそれは、福祉と仕事の要件とを関連付けるようにしているからだ。そうしなければ、受給者は永遠に補助金を受ける道を選ぶことになる。1996年のギングリッチ・クリントン福祉改革が、補助金受給者を3分の1に減らすことができたのはそのためだ。補助金受給のための仕事の要件を緩和したオバマ政権が、オバマケアによって仕事への意欲が削(そ)がれることを歓迎しているのは理解できる。
しかし、オバマケアの雇用への戦争は、自発的に仕事をやめるというレベルにとどまらない。政府は、不用意に、かつ確実に、オバマケアのそれ以外の影響、自発的でない雇用喪失を認め始めている。政府は10日、雇用主の従業員への保険提供義務を先送りした。すでに2015年まで先送りされていたが、さらに1年先送りされた。
これは国民皆保険の理想を損ねるものではないだろうか。確かにそうなのだ。その一方で、オバマケアの下で着実に、小企業はつぶれ、雇用は失われていく。オバマケアは、保険提供義務を回避するために、小企業に従業員を50人以下に削減させる大きな要因を作り出した。企業は、解雇するか、週30時間以下に労働時間を減らすことで利益が得られる。週30時間ではフルタイム労働者に数えられないため、保険提供義務に従って医療保険料を支払うことも、義務に違反して罰金を支払うことも回避できるからだ。
第2次大戦以来、最も弱い景気回復、歴史的に見ても多い慢性的な失業と、驚くほど低い労働参加率の下で、政府が、オバマケアによる経済への影響に懸念を抱くのは当然のことだ。数百万人が職を失ったり、パートタイム労働者に格下げされざるを得なくなるという、民主党にとっての政治的な副産物についても、政府は懸念している。
保守派は、5年前からこの点について警告してきた。難しいことではない。自発的な離職と強制的な失業は完全に予測できていた。ペロシ氏は、法案を可決してから、中身をみようと主張した。いま私たちはその内容を知ることになった。