郷愁を呼び覚ますオアシスーブラジルから


地球だより

 先日、日本の食料品を売っている個人商店で買い物をした。支払いを済ませて帰ろうとしたところ、商店主に呼び止められた。買い物袋をレジに置いたまま帰るところだったのだ。

 商店主は「お客さん、やっぱり日本人だよね」と笑いながら品物を渡してきた。会話は全てポルトガル語なのだが、実直そうな日系商店主の人柄などもあり、日本の下町か田舎の商店で買い物をしているような気持ちになった。

 海外在住の日本人にとって、日本食料品店や日本食レストランは掛け替えのないオアシスだ。数年前になるが、取材で訪問したパラグアイでは、酷暑の中で僻地(へきち)取材が続き、最後は寝室がゴキブリだらけの連絡船(パラグアイ川)で、3日をかけて首都アスンシオンにまで帰ってきたことがあった。

 ベッドで寝ている足や腕の上を小さなゴキブリが這(は)い回り、酷暑の中でエアコンや扇風機さえなかった経験は忘れられないものだ。アスンシオンの日系ホテルに着いた時は、「ここは天国か」とまで思ったものだった。

 ホテルの部屋に荷物を降ろし、その足で市内にある日系食料品店に向かった。店内に入って腰が抜けるほど驚いたのが、中年の日系店主と初老の日系人客が、「関西弁」で会話をしていたことだった。関西生まれの記者にとって、まるで日本にいるような、郷愁の思いに満たされた瞬間だった。

 その後、ホテルの部屋で日本茶を飲みながら、現地の日系人が作った「おはぎ」に舌鼓を打った。過酷だった過疎地での取材の苦労が全て吹き飛ぶ、これもまた人生の中で忘れ難い味となった。

(S)