日系人が積み重ねた「無形資産」ーブラジルから
地球だより
先日のことだが、用を足すために車で出掛けた際、走行中にいきなりエンジンが止まってしまった。後続車の邪魔にならないようにと、取りあえず一人で路肩まで押した。しかし、普段は利用しないエリアだったために助けを呼ぶにも勝手が分からず、近くの修理工場も週末で閉まっていた。
途方に暮れていたところ、一人の紳士が車を止めて降りてくると、「助けが必要か」と尋ねてきた。これ幸いと思い、「近くのレッカー会社を知っていますか」と聞いた。
紳士が知人のレッカー会社に電話をすると、休日だが1時間もあれば来てくれるとのこと。心から礼を言うと、紳士は「大したことじゃない。ちなみに、あなたは日系人か」と質問してきた。
「日本人です、1世です」と返事をすると、「そうか、私は日系人がとても好きなんだ。仕事仲間や取引先にも日系人は多いが、とても誠実で勤勉、うそをつかない。とても大事なことだ」と言った。
詳しく話を聞くと、道端で途方に暮れている私を見て、日系人なら助けないといけないと思って声を掛けたのだというのだ。
ブラジルの日系社会は、最初の移民から110年以上がたち、すでに4世、5世の時代を迎えている。生き馬の目を抜くようなブラジル社会で、世代を重ねながら勤勉・誠実に生きてきた。大げさだが、その無形の資産に記者は助けられたのだ。
海外に出る日本人は、一人一人がその国を代表する。よく言われる言葉ではあるが、日本人・日系人としてブラジル社会に関わっている重みを感じた出来事だった。
(S)