淡水魚のなれ寿司
地球だより
寿司(すし)の原型とされるなれ寿司。実はタイにも、このなれ寿司が存在する。
タイの東北にあるチェンライなどでは、なれ寿司は庶民の味だ。
このなれ寿司は、川魚で作る。子供たちが近くの小川で捕ってきた、フナなどの小魚を塩漬けにし、これにご飯を加えて乳酸発酵させるのだ。
タイでパー・ソムといい、ラオスではこれが反転しソム・パー、ベトナムでマム・チュア、ミャンマーでソガチンジン、マレーシアでチィンチャーロという。いずれも同じ淡水魚のなれ寿司だ。
一説によると、そもそもなれ寿司は東南アジアの稲作民族から中国の揚子江流域を経由し、韓国を経て稲作とともに日本に渡ってきたとされる「なれ寿司の道」が存在するらしい。
無論、本道は「稲の道」。そのわき道に「なれ寿司の道」があったもようだ。
チェンライでなれ寿司作りを見たことがある。フナはよく洗って鱗(うろこ)を取る。それを背骨に沿って薄くそぎ落とす。その切り身をまな板の上に乗せ、包丁で軽くたたく。これで切り身に振りかける塩がよくなじむ。
それを米のとぎ汁の中に浸し、臼で潰(つぶ)したニンニクと塩を付け足し、蒸したもち米に混ぜる。それをバナナの葉でくるみ、きっちりとわらで縛る。あとは放置して5日ほどで食べられる。
口に頬張ると、魚の生臭さは見事に消えているが、やたらしょっぱくて酸っぱいというのが第一印象だ。旨味(うまみ)が凝縮されている日本のなれ寿司に慣れた口にしてみれば、野暮(やぼ)ったさは隠せないが、それでも貴重なタンパク源を貯蔵できる英知が結集された代物であることだけは間違いない。
(T)