4年目のアベノミクス、消費再増税控え正念場

 新年の2016年が明けた。株高、円安(円高是正)で華々しくスタートした第2次安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」も今年で4年目。デフレ脱却とともに財政健全化を強く意識し、2年目に実施した消費税増税以降、その勢いはすっかり影を潜め、増税の影響はいまだに尾を引く。デフレ脱却も道半ばだ。海外経済には不透明要因が多く、昨年大筋合意した環太平洋連携協定(TPP)は発効待ちで春闘での大幅賃上げに期待が高まる。来年4月の消費税率10%への再増税を控え、「アベノミクス」はいよいよ正念場を迎える。(経済部・床井明男)

いまだデフレ脱却ならず

春闘の大幅賃上げが頼り?

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自民党の総裁再選が正式に決まった後の記者会見で第2ステージの「アベノミクス」で「1億層活躍社会」を目指すと表明した安倍晋三首相=昨年9月24日、東京・永田町の同党本部

 「財政健全化計画の初年度にふさわしい予算案になった」――

 麻生太郎財務相が先月24日の記者会見で語った、16年度予算案への評価だ。政府は同計画で政策経費を借金に頼らずどれだけ賄えるかを示す基礎的財政収支について、20年度に黒字化する目標を掲げており、16年度はその最初の年。

 確かに16年度予算案の歳入は、税収が57兆6040億円と、15年度予算から3兆円以上増え、歳入不足を補う新規国債の発行は34兆4320億円と2兆円以上減額。歳入全体に占める借金の割合を示す国債依存度は35・6%となり、リーマン・ショック前に編成した08年度当初予算の水準まで低下した。好調な企業収益と雇用者所得の増加から法人税や所得税などで税収を高めに見積もることができたからだ。

 もっとも、予算案の規模は一般会計総額が96兆7218億円と過去最大になったものの、伸び率(対年度当初予算比)は0・4%増、国債費を除いた政策経費では同0・3%増とわずかで、税収増の要因になる景気にはほとんど中立的で援軍にならない予算になっている。

 予算案の中身では、今後の消費や設備投資の増加に向けた環境整備を進めた予算とも言えなくもない。「アベノミクス」第2ステージの目玉政策「1億総活躍社会」の実現に向け子育て支援策などに配慮し約2兆4000億円を充てたこと。それに税制面での法人税減税だ。国と地方を合わせた法人実効税率は32・11%から16年度は29・97%、18年度は29・74%に低下。実効税率の引き下げで16年度は7280億円の減税になっている(もっとも、その一方で設備投資減税の廃止や外形標準課税の強化で差し引き80億円の減税になり、設備投資増加にどれほどつながるかは未知数)。昨年大筋合意したTPPも、特に大企業製造業にとっては中長期的に大きな援軍になるが、発効はまだ。各国議会の批准待ちの状態だ。

 16年度予算案はその規模からみて、景気拡大に関しては民間頼みの状況だけに、期待のかかる民間活動だが、決して安泰というわけではない。民間活動は利潤追求を目的とした営利活動ゆえ、結局は需要の動向次第。足元の経営環境から言えば、不安の少なくない危うい状況なのだ。

 民間活動とは具体的には企業の春闘での大幅賃上げと設備投資の増加だ。

 経団連など経済界は政府との経済対話などで、「経済の好循環実現に協力したい」(榊原定征経団連会長)と政府の賃上げ要請に応じる姿勢を示している。1月に春闘での指針として会員企業に、企業業績に見合った前向きな対応、つまり昨年を上回る賃上げの検討を促す予定で、実現すれば3年連続の大幅賃上げ対応になるが、現実の各企業の対応はどうなるか。

 企業の設備投資計画は、12月の日銀短観によると15年度は大企業全産業で前年度比10・7%増と依然として高めの数字が出ているが、その通り実現するかどうかは予断を許さない。

 というのも、12月短観で示された企業の3カ月先の景況予想は、業種や規模を問わず全ての企業で悪化するとの内容で軒並み慎重に見ているのだ。前述の高めの設備投資計画も9月短観より1・1%下方修正されている。

 その背景として考えられるのは、中国経済の減速など新興国の経済の低迷に加え、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが世界経済、特にこれまで緩和状態が続いてきた金融市場にどういう変化をもたらすかなど先行き不透明な部分が少なくないことだ。

 国内需要は人口減少時代を迎えて大きな伸びは期待できず、それだけ海外市場に目が向くが、海外需要が折り悪く不透明。そんな状況の中で、どこまで企業が積極的な設備投資を実行できるかどうか。

 このところ発表される経済指標は一進一退、景気回復に力強さは相変わらず見られない。財政(予算)は援軍にならず、現状で唯一期待できるのは春闘での賃上げぐらいだが、果たして、そうした経済状態で来17年4月の消費税10%への再増税を迎えられるのかどうか。

 懸念される経済への影響は、軽減税率が酒類と外食を除く飲食料品を対象になり、過去の増税時よりは深刻ではないと予想されるが、前回からまだ日が浅く、依然として影響が尾を引いている段階で日本経済が耐えられるかどうか。

 海外環境も良いとはいえず、日米の金利差拡大から円安がさらに進むようだと、輸入物価を押し上げ食料品などの値上げにつながりかねない。低所得者層にとっては軽減税率の恩恵も吹き飛んでしまう。日銀の追加緩和は円安に油を注ぐ形になり、消費には逆効果。「アベノミクス」4年目の16年は再増税を控え、まさに正念場。再増税見直しの検討も出てきそうだ。