3年目迎えた「アベノミクス」

カギ握る春闘賃上げ

円安、成長戦略も動向左右

 安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」が3年目を迎えた。昨年末の衆院解散、総選挙で国民から信任を受けた「アベノミクス」だが、日本経済はGDP(国内総生産)が2期連続のマイナス成長にあり、景気後退も懸念されている。第3次安倍内閣は引き続き経済政策を最優先し、デフレ脱却に向け「アベノミクス」を加速する考えだが、果たして、次の消費再増税を実施する17年4月までに経済再生、デフレ脱却を実現できるのか正念場を迎えている。(床井明男)

消費再増税実施控え正念場

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記者会見で衆院解散と15年10月の10%への消費税再増税の延期を表明する安倍晋三首相=昨年11月18日首相官邸

 第3次安倍内閣は、3・5兆円規模の経済対策を昨年末の27日に決定。同対策を含む14年度補正予算案と15年度予算案を年明け早々、順次閣議決定し、通常国会で両予算案の早期成立を目指す。

 経済対策は、2期連続のマイナス成長と足取りの重い国内経済を活性化するため、個人消費の喚起と円安対策が中心。

 昨年4月の消費税増税以降、個人消費の低迷が予想以上に長引き、それが企業設備投資の伸び悩みに繋がり、牽引役が不在の事態に。さらに日銀の追加金融緩和で一段と進んだ円安により、輸入原材料価格が上昇。食料品など生活必需品の値上げが相次ぎ、賃金の上昇が物価の上昇に追い付かない。実質賃金は16カ月連続マイナスで消費意欲を抑制しているためだ。

 消費喚起では、新しく2500億円規模の交付金を創設、地方自治体や商店街が発行する商品券などを助成する。新交付金にはこれとは別に、1700億円規模の地方創生総合戦略に沿った自治体の少子化対策などを支援するものもある。

 円安対策では、輸入コストの上昇で経営を圧迫されている中小企業の資金繰りや事業再生を支援するため、日本政策金融公庫の低利融資や信用保険業務を拡充するという。

300 そのほか、昨年4月の消費税増税以降、低迷する住宅市場の活性化へ、住宅金融支援機構の住宅ローン金利の引き下げ幅拡大や「住宅エコポイント」を復活させる。

 昨年4月の消費税増税のデフレ効果は3%の税率アップで約8兆円。増税の経済への悪影響を考慮した13年度補正予算での対策が5・5兆円規模だったから、今回の対策と合わせてようやくカバーする規模になるが、一度落ち込ませてしまった内需を再び勢い付かせるのに十分かどうか。

 マイナスが続く実質賃金をプラスにし「経済の好循環」を実現するには、何より、賃金の継続的な上昇が不可欠であり、その動向はアベノミクスの今後に大きく影響する。

 昨年の賃上げでは政府の強い要請もあり、賃上げ率は15年ぶりの2%台になった。今年の春闘でも、先月の政府と経済界、労働界の代表が参加した政労使会議で、経済界側が賃上げに「最大限の努力」を払うことを約束したが、現実は個々の企業の経営判断に委ねられる。また、それ相当の賃上げが実現したとしても、問題はそれが中小企業にどこまで波及するかである。

 企業の継続的な賃上げや積極的な設備投資は、数十兆円という豊富な内部留保を持つ主要企業自らの経営判断を待つしかないが、そうした判断を引き出す環境整備の役割を担うのが、「アベノミクス」第三の矢の成長戦略の推進である。

 政府は通常国会に農業や雇用、医療分野のいわゆる「岩盤規制」の改革に向け成長戦略関連法案や、衆院解散で廃案になった女性の活躍促進の裏付けとなる保育士拡充など追加の規制緩和策を盛り込む国家戦略特区法改正案を改めて提出する方針だが、経済対策と違い、即効性は期待しにくい。そこで重要になるのが、法人税改革など税制面での措置である。

 昨年末に法人実効税率(現行約35%)の15年度の下げ幅が2・5%超と決まった。税収の大幅減少を懸念する財務省などは2%程度の下げ幅を主張したが、経済成長の後押しを重視する首相官邸サイドが押し切った。17年4月の再増税には経済回復が絶対条件なだけに、「実質的な減税先行」(甘利明経済財政担当相)という姿勢は重要だろう。

 賃金の動向では、為替相場がどうなるかも、大きな注目点である。

 円安は確かに輸出関連企業にとり有利で企業収益や賃上げにもプラスに作用するが、それ以外の中小企業をはじめとする多くの内需依存型企業には、対策を必要とするほど負担になっているのが現実である。

 この点で、重要になるのが日銀の金融政策である。2年で2%程度の上昇を目指すという物価目標を達成するには、原油相場の下落もあり、当面は緩和政策を続けざるを得ないが、一方で景気対策上、これ以上の円安は好ましくないという現実もある。緩和一辺倒の政策では済まないわけである。利上げも検討段階に入っている米国との金融政策の相違から、円安に傾きやすい緩和政策を今後どうするのか。

 アベノミクス2年目での消費税増税は、前回1997年度の教訓を生かせぬ失政だった。再増税まで2年余。3年目の今年はその前半の1年で、首相が常々会見で表明する「アベノミクスの加速」が試される年である。