韓国の反日に北の影

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 韓国・文在寅政権による波状攻撃のような反日路線は、北朝鮮の日韓分断戦術や親日派清算の建国精神から影響を受けた結果だとの見方が浮上している。日韓関係悪化は安全保障面における日米韓連携にも亀裂を生じさせているが、北朝鮮にとって願ったり叶(かな)ったりの展開となっていて事態は深刻だ。(ソウル・上田勇実)

分断 指示通りの展開
文氏側近、北建国精神に傾倒

 「これまで持続的に韓国左翼運動家たちに影響を与えた『カックン論』というものがある。青瓦台(大統領府)の秘書官以上の側近20人以上も学んできたもの」

金日成主席

金日成主席(AFP時事)

 ソウル中心部の光化門広場の一角で大型テントを張り、朴槿恵前大統領釈放運動を続ける保守系野党ウリ共和党の趙源震代表はこう語った。

 「カックン論」とは北朝鮮の金日成主席が1969年に工作員を養成する金星政治軍事大学(現、金正日政治軍事大学)を訪問した際に語った指示に由来する日韓・米韓分断戦術だ。金主席が72年に行った演説にはこんなくだりが出てくる。

 「南朝鮮(韓国)政権は米国、日本という2本のクン(紐〈ひも〉)で維持されている。人がかぶるカッ(両班がかぶった帽子)は2本のクンのうちどちらか1本が切れても頭から落ちてしまうように、南朝鮮政権を打倒するには米国というクンか日本というクンかのいずれか1本でも切ってしまうカックン戦術を用いなければならない」

 先月、文政権は政権内でも反対意見があったという日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を発表し、米国から強い不信を買っている。日韓関係に加え米韓関係までぎくしゃくし始めた現状は、まさに「カックン戦術が文政権下でそのごとく展開している」(公安問題専門家)と言っても過言ではない。

 文政権の反日は左翼学生運動出身の側近たちが北朝鮮の建国精神に傾倒しているためとの指摘もある。北朝鮮との交渉経験が豊富な元韓国政府高官はこう述べる。

カックン戦術

韓国・文政権の対日政策に影響を与えている北朝鮮の「カックン戦術」を特集した韓国誌

 「北朝鮮では日本の統治から解放され建国できたのは金日成将軍が抗日独立闘争をしたおかげと教えられているが、文政権の側近たちはその活動に感動し主体思想に心酔していった人たち。彼らにとって善悪の基準は反日か親日かであり、親日が韓国で起きる諸悪の根源だと考えている。親北より反日の方が優先順位は上だ」

 文大統領は6月、朝鮮戦争の戦死者を追悼する「顕忠日」の式典で演説し、今年が日本統治に反対して上海で発足させた大韓民国臨時政府の樹立から100年の節目であることを強調。また北朝鮮に渡った後、粛清された独立運動家、金元鳳を英雄扱いした。

 北朝鮮での評価が低い臨時政府発足や金元鳳を文政権が持ち上げたのも「反日精神が親北精神よりはるかに強い」(元韓国政府高官)ためだという。

 先週、ソウルの日本大使館前では1400回を超えた毎週定例の慰安婦デモ集会が行われた。演題に立った元慰安婦の李容洙さんは動員された学校の児童や労働組合員たちを前にし、「日本のアベ(安倍晋三首相)は嘘(うそ)つき。強制的に連行し、強制的に性的暴行を加え、殺した。それなのにそんなことはしていないと言う。私は直接的被害者だが、皆さんも被害者。アベに謝ってもらおう」と叫んだ。

 この集会を主催しながら執拗(しつよう)に日本批判を繰り返す慰安婦支援団体の姿勢について、同問題をめぐる韓国側主張の過ちを近著『反日種族主義』で指摘した「李承晩学堂」理事の朱益鐘氏は「日本が到底受け入れられない無理難題を韓国が押し付けるのは韓日関係を破綻させるためとしか思えない。まるで北朝鮮の思惑を忖度(そんたく)しているかのようだ。日本との関係を悪化させるには慰安婦問題を継続、拡大させていくことが有効と判断しているのではないか」と述べた。