「あなたの知らない筋肉の世界」 適度な運動は脳の萎縮防ぐ

社会参加と地域保健研究チーム・桜井良太研究員

 老化は足腰からと言われ、健康長寿には歩くことが良いとされてきた。それ以上に、認知機能低下・認知症予防にも良いことが明らかになってきた。「今、筋肉が熱い!?~あなたの知らない筋肉の世界~」と題して、このほど、老年学・老年医学公開講座(主催・東京都健康長寿医療センター)が練馬文化センターで行われた。東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チームの桜井良太研究員は「運動不足解消で認知症予防―日々の生活で気を付けたいこと―」と題して講演した。

身体活動量低いと認知症リスク上昇

「あなたの知らない筋肉の世界」 適度な運動は脳の萎縮防ぐ

東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム・桜井良太研究員

 歩く機能と生命機能は密接に関係していることが知られているが、歩く速度の低下が認知機能とも密接に関連していることが分かってきた。「歩く速度が遅い」「主観的な物忘れをする」というリスクファクターを持つ人がその後12年間で認知症をどのくらい発症するかを調べたところ、健常な人と比べ、約2倍で認知症になりやすいことが分かっている。

 タンパク質の代謝に関与するAPOEという遺伝子があるが、この遺伝子の4という型を持っている人では、認知症発症の危険性が高まることが知られている。歩行機能の低下がワルサをするAPOE4のスイッチになっている可能性が分かってきた。

 100から1ずつ引いた数を口に出しながら歩いただけで、途端に足がもつれてしまう。こんな症状が出たら、MCI(正常域と認知症の間の状態で、適切な対応を行えば、正常に戻ることができ、発症を先延ばしすることができる)の可能性がある。

 見るからに歩く速度が落ちてきたら誰もが変化に気付くが、このような変化は、日常的には分かりにくいので注意が必要である。

 適度な運動は、血液の循環を良くし、神経が生き生きし、神経を成長させるホルモンが出やすくなり、海馬など脳の萎縮を防ぐ効果がある。日々の生活(家事、育児、移動など)での身体活動量が低い(ほとんど何もしないで座ったまま)集団では、活動量が高い(通常に家事などをこなす)集団に比べ、認知症の発症リスクが約2・3倍高い。特定の運動が良いというのではなく、日々の生活を活動的に行うことが重要だ。

 認知症の一つ、アルツハイマー型認知症は脳にアミロイドβタンパクがたまり、神経細胞が死滅し萎縮が起こる病気。適度な運動をすれば、“脳のゴミ”と言われるアミロイドβタンパクの排出が促進される。

 健康のためには、適度な運動が重要だが、やりたくない運動を無理して行うことは得策ではない。身体運動は健康づくりの手段の一つであり、あくまでも、生きがいや楽しみのある暮らしを続ける手段。生活の中に運動を取り入れている人は、食事や社会性にも気を使っている。規則正しい日常生活やスポーツ活動、社会参加活動を通じて充実した生活を送り、身体運動を高め、そのお土産として健康を手にすることが、豊かな老後の秘訣(ひけつ)かもしれない。