イグアナの涙
地球だより
亜熱帯のタイでは、温帯の日本とは異なった動物が存在する。
陸で目を見張るのは30センチ大のトカゲのトッケと、喉をしゃもじのように広げてゆらゆら揺れるコブラだ。
海でも蝶(ちょう)が舞うような熱帯魚の美しさには目を見張る。ただ、目には良くても食べるには敬遠したくなるのが熱帯の魚だ。魚は寒流魚の方が脂が乗って断然、うまい。そこはタイ人もよく知っていて、市場にもスーパーにもノルウェー産のサバが結構、人気がある。
なお海で目を見張るものが、もう一つ存在する。ビーチがある砂浜ではなく、ごつごつした岩場などでうごめいているイグアナだ。
インドネシアにいるコモドドラゴンのように巨大ではないし、陸で狩りもしない。1メートル半ほどのイグアナは、鋭い爪で岩場の足場を確保しながらのろのろ歩くが、海中ではペンギン顔負けの鋭い泳ぎで魚を捕獲する。
泳ぎの達者なイグアナとはいえ、遠泳して遠い島々を巡って移動したりはしない動物だから、先祖はきっと流木などにつかまって流されてこれらの地にすみついたに違いない。
そもそもタイ人も中国の雲南あたりからの流民を先祖とする。「海の流民」イグアナと「陸の流民」タイ人は、きっと相性はいいに違いない。
ただ、市場にいくと100バーツ(約340円)でイグアナのベルトが売られていたりする。たとえ心の深みで共感するようなことがあっても、金が絡むと別だ。流浪の果てに日干しにされて皮だけが残る悲劇も生まれる。
(T)